02
黒崎一護たちが現世へ帰ってから数週間後、錦は隊首室に召喚された。ああ、ついに隊長直々に説教されるのかと内心びくびくしながら戸を開ける。八番隊隊長・京楽春水は彼特有の女物の派手な羽織をなびかせて、「いらっしゃい」と錦に微笑みかけた。「忙しい中ごめんねえ。さ、座って」
特に怒りを含んだわけでもないその声に促され、錦はおそるおそる京楽の前に座る。するとそんなに怯えないでくれと苦笑されてしまった。
「いやいや…平隊士の私が隊首室に呼ばれるなんて、何かあるとしか思えませんよ。例えばクビとか」
「はは、そんなことじゃあないよ。むしろ良い話だからゆったりしてくれ」
そう言われて驚いた。錦は特に褒められるようなことはしていない。しきりに首を傾けていると、京楽は嬉しそうに話しだした。
「実はね、錦ちゃんに現世への短期駐在任務が命ぜられたんだ」
“……何だと?”錦の頭上にハテナが飛び回った。現世への駐在任務といえば、十三番隊の朽木女史が最近まで就いていた仕事だ(まあそれも処刑騒動により頓挫してしまったが)。
その後任を、錦にやれと?
「………短期ということは、普通の駐在任務ではないということですか?」
「そうだねえ。なんでも今、十三番隊は慌ただしい状態でね、とてもじゃないが現世派遣に割ける実力者がいないらしく、体制が整うまでの凌ぎ役として抜擢されたのが君ってわけ」
しかもどういうわけか、錦を凌ぎ役として推薦したのは浮竹隊長らしい。そりゃまあ、十三番隊にはたまに足を運んだりしていたから面識はあったが、十三番隊の管轄を任せてもらえるほど親しかったわけではない。まったくもってわけの分からない話である。
「ボクは知ってたよ?錦ちゃん」
京楽がおもむろに口を開く。
「君は決して弱くない。こんなところで終わるような人材じゃあないってことをね」
「!」
「まったく…あんなあからさまに手を抜いてたら、逆に観察してくれって言ってるようなもんだよ?もうちょい上手くサボりなね。あ、因みにこれ、浮竹も気づいてたから」
確かに我が隊長も浮竹も聡明な人物だ。人を見る目など有り余るくらいだろう。
今までいい加減に生活してきたというのに、難儀なものである。
「…分かりました。短期駐在任務の件、承りました」
「うん、期待してるよ」
そんなわけで、錦はやりたくもない駐在任務を行うことになった。