好奇心は猫をも殺す

 「なにこれ」下心のない声に眩暈がした。彼女の手には似合わない"それ"を、どう言い訳しようかと頭が凄まじく回転する。が、頭に過ぎるのは昨日の出来事だった。
 発端はあのクズ教師である。
『棘ってオナホ使ったことあんの?』
 丁度水を飲んでいたため盛大に噴き出してしまった。こいつ今何て言った?と睨めばそんな怒んないでよ〜と笑われた。どうやら深い意味のない質問だったらしいが狗巻の態度からして未経験であることを悟った五条は、今日の朝一で性玩具…オナホールを狗巻にプレゼントしてくれたわけだ。絶対からかってるだろと思ったもののこれを学校や寮のゴミ箱に捨てるのは倫理的にアウトだと察した狗巻は、一先ず自分の部屋に置いておくことにした……のだが。
 まさか恋人である名前がそれを見つけたのは計算外だった。
 狗巻の必死の言い訳を聞きながらも彼女は淡々と説明書を読んでいる。何でだよ。
「やってあげようか?」
 え。
「だってなんか、やるの通過儀礼みたいな感じじゃん。手伝ってあげるよ」
「お、おか……」
 ―――そんな宿題手伝ってあげるよみたいに言われても…。
 しかしそうは思っていながらもすぐに否定できなかった。彼女にやってもらいたいか否か、二択で迫られたら…そりゃやってもらいたい。狗巻も好奇心には勝てなかった。
 時刻は夕方。他の皆は任務でいない。やるなら今しかなかった。そういうわけで恥じらいながらも、おずおずと下を脱いだ。まじまじ見られるのも嫌なので足を閉じれば、コレはめられないじゃんと怒られた。オナホをしてもらう以前に既に恥ずかしくて死にそうだ。
「えっ…と、ローション中に入れたら良いんだよね。それから……さ、触る、よ?」
 名前が恥じらいながらも陰茎に手を伸ばす光景はなんて倒錯的なんだろう。そういえば一度も触らせたことがなかったのでいけないことを無理にさせている気分になる。
 竿の部分からす、と指先で撫でたり睾丸をやわやわと揉んだりしている内に、自分で慰める時よりも早く反り上がってきた。恥ずかしいとか言っておきながらやっぱり興奮しているらしい。そろそろ頃合いだと分かった名前が亀頭にオナホの入口を充てがう。じゅぷ、と先っぽが中へと入っていった。
「ッひ――」
 ローションが思いの外冷たくて体が跳ねる。使う前に温めておくべきだったなと反省する間もなく、ずぷぷぷとオナホをかき分けシリコンの感触が周りにまとわりついた。
 先走りとローションが混ざっているのか、名前がオナホを動かす度にぐちゅ、ぬちゅ、と粘度の高い音が響く。更に中の襞が余すことなく自身を刺激し、ひくひくと腰が反応する。だが名前は容赦なくそれを動かし続けた。
「ッ――!…っ、ふ、ぅ…っ!」
「大丈夫?」
 どの口が言ってるんだか。悪態をついてやりたい気分だ。
「はあっ、ぁっ、は、ぁっ……ン、ん…っ」
「あ、唇噛んじゃダメじゃん」
「んんっ…!?」
 あろうことか名前は食いしばる狗巻の唇を舐めた。柔らかくて気持ちの良い舌が表面を這い、そのまま軽くキスをする。思わず気が抜けた所為で下から電気のような快感がよじ登ってきた。
「あぁ、っあ゛っ!」
 しかしそれでは終わらない。いまだ名前は上下させ狗巻を虐め続ける。じゅっぽ、じゅっぽ。普段ならそこまで激しくない水音が妙に耳につく。
 ―――これなんか…。
 ―――すごい……恥ずかしい…!
 ―――やっぱり嫌だ…!!
 潤む視界で下を見れば名前の手が無感動におもちゃを動かし続け、それに引っ張られるように腰が揺れていた。
「ァ、あーっ、あ゛っ、…はゃ、くっ…」
「!」
 早く終わらせてくれという意味だった。だが、最悪なことにそうは捉えてもらえなかったらしい。
 オナホを上下させるスピードが速くなる。じゅぽじゅぽと無機物の中で絡み合い、名前の手で強制的にその気にさせられ、情けなく喘がされ、狗巻はもう限界だった。
「もっ…っぃ、〜っでるっ!でる、ぅ…!ぅう゛」
 言葉通り欲を吐き出した。ひどい脱力感にくたりと壁に背を預ける。瞬きすればボロリと涙が溢れた。いつの間にか泣いていたらしい。羞恥心が芽生えたが涙を拭うのも億劫だった。代わりに名前が目尻を舐めてそれを拭き取る。
「泣いちゃうくらいイヤだった?」
「……」
 そういうわけではないか、何というか、色々失った気がする。
 どう説明しようかと悩んでいると名前の指が狗巻の胸元をなぞる。「でも」この時の名前は、女の顔をしていた。
「これされてる棘、すごくかわいかったね」
「――ッ!!」
 またしてあげても良いよだなんて平気で誘惑する彼女は、紛れもなく悪魔だった。そしてそれに一瞬だけ胸を躍らせてしまった自分は、どうかしている。
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双六