磔の純情

 何でそうなるんだと目で訴えれば、名前は困ったように苦笑した。いつもと違う薄い服、そして太ももを這う二本の黒いベルトに、目眩がした。
 何故狗巻がこんなにも怒っている…というより拗ねているのかといえば、有体に言えば五条の一言が原因だった。
 狗巻が疲れを覚える体を引きずりながら高専へ帰れば、偶然五条と顔を合わせた。その際に言われたのだ。『名前めちゃくちゃ可愛かったけど、棘見た?』と。え、何それ見てない――少し冷える胸中を察したのか五条はケラケラと笑った。勿体なかったね、と言葉を付け加えて。仔細は分からないが五条曰く、名前が何やらいつもよりややセクシーな服を着て学内をほっつき歩いていたらしいかった。何だそれは。セクシーな服って何だ、どういうのだ。ていうか何でお前が知ってるんだ。許せない。
 そういうわけで狗巻はすぐさま名前の部屋に押しかけたわけである。メイクは落としてしまったらしいが幸い着替える直前だったようで狗巻は名前のいつもと全然雰囲気が違う格好を拝むことができた。
「こんぶ?」
「いや〜大したことじゃないんだよ?」
 弁解する名前の表情筋は若干引きつっていた。
「野薔薇がね、たまにはちょっと違う服を着てみようって言い出してね……それでね、大人っぽいの着たの」
 ―――大人っぽいの、か。
 確かに大人っぽいが、狗巻からすればどちらかと言えば挑発的な格好と言えた。いつもより膨らみが分かる胸も、短いスカートから伸びる美しい脚も、それを蠱惑的に魅せるベルトも、どう考えてもこちらの視線を奪う為のものとしか思えない。こんなものを着てよく平気でうろつけたものだ。
 しかもよりによって他の男に見られるなんて。
「おかか」
「えっ……まあ、わたしもちょっと恥ずかしかったけど…」
 ―――ああほら。
 ―――そうやって頬を染めるな。
 誘っているのかと、勘違いしそうになる。
 思わずするりと腰を撫でれば名前の体はピクリと震えた。そして、おそるおそるとばかりに目を合わせてくる。狗巻が何を考えているのか知りたいと思っている目だ。普段は見せない従順で、大人しい色を含んだそれに加虐心がむくむくと膨らむ。
 人差し指で喉を撫であげ顎を上げ、そのまま唇に噛みつく。突然の行為に彼女の肩がびくんと跳ねたが気にしなかった。歯を立てたところを舌で舐め、無理やり唇を割って口内に侵入する。上顎と頬の内肉をつついて遊んだあと舌を絡める。じゅ、と吸い上げれば名前の手が狗巻の背に回った。気分が高揚する。
「はぁっ…ちょ、棘、待って」
 言葉の合間にもちゅ、ちゅ、と音を立てて口づけを交わす。腰を撫でていた手はゆっくりと下がり、太ももへと到達する。肌とは別の感触が手に触れた。縁をなぞればくすぐったいのか脚が動く。が、そんなこと狗巻には関係ない。肌とベルトの間に指を入れ――ぱちん、ベルトを引っ張った。
 途端、名前は硬直した。
 暫し見つめ合う。緊張が彩られた彼女の瞳は、もう既に狗巻の熱情に押し負けていた。
「あ……その………」
「―――………、」
 名前の股の間に自分の膝を差し込み閉じるのを塞ぐ。スカートの中に続くベルトの先をなぞれば名前は観念したように目を閉じた。
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双六