げつようび

 スリナの朝は早い。起床して身支度を整え、カーテンを全て開けて日差しを浴びてから庭先の草花に水をやる。スリナと同じかそれより早起きなヌケニンとフワンテがそれを手伝う。そこでこの館に棲み着いている早起きなゴーストポケモンたちと、朝の挨拶をする。ヌケニンは無口だがフワンテはいつも間延びした鳴き声を発する。大体はその辺りでフワライドが空からやって来る。どうやら朝の見回りをしているらしい。年季の入ったこの館に早朝から忍び寄る不審者などいないと思うのだが、フワライドはそう考えないようだ。
 水やりを一通り終えたあと、きのみの具合と花壇を確認してから朝食の用意に取り掛かる。いつもはスリナ一人分と手持ちポケモン二匹、そしてこの館に棲み着くゴーストポケモンたちの分だけなのだが、今日は違った。
「お前いつもこの時間に起きるのか?」
「あ、おはようシンジ」
「……、おはよう」
 そう、この日は彼がいた。
 トバリシティのシンジ。シンオウ地方を共に旅した仲間である。彼はシンオウリーグスズラン大会の準々決勝にて恐らく彼の人生の中で最大のライバルだっただろう少年に惜敗した後、キッサキシティにて目標だったジンダイとポケモンバトル。見事再戦を勝利に収めた。その時の彼の嬉しそうな顔は、今後拝みたくても拝めない貴重な表情だった。
 その後イッシュ地方への旅に誘われ、旅が終わった頃に二人の道は分かれた。それなのに何故彼が今ここにいるのかといえば、昨日の夕方に突然訪ねてきたのである。
「……まあ、こんな大きな洋館の管理を任されていたら早起きにもなるか」
 やること多そうだしなと呟いてまだ寝間着姿の彼は椅子に座る。
「エレキブルたちは?」
「まだ寝てる……あいつらの分も朝食があるのか」
「うん。栄養バランス考えて作ったけど大丈夫そうかな」
「ああ、問題ない。……ありがとう」
「いいよ。シンジの分もちゃんとあるから着替えてきなよ」
 するとシンジは既に朝食に夢中になっているヨマワルたちを一瞥してから、無言でリビングを後にした。
 正直なところ、どうして彼が前触れもなくやって来たのか皆目検討もつかなかった。昨夜ぽつりと彼が漏らした『これからのことはまだちゃんと考えてない』という発言からして多分今は休養期間なのだろう。きっと彼も色々あるのだろうと完結させ、スリナは深く考えないことにした。
 やがて他のポケモンたちも起き出してきた。ゴースにゴースト、ゲンガー、ムウマ、ムウマージ、ミカルゲ。みな朝が弱いようで寝ぼけ眼をしぱしぱと開閉させてリビングに入ってきた。同時に着替えたシンジと彼のポケモンたちもやって来る。こうして見るとかなりの大所帯だ。
「あ、フワライド。…その窓から入るのは厳しくない?」
 更にはフワンテとフワライドが窓から部屋に入ろうとするのだから、かなりカオスな空間に成り果てる。庭に繋がる大窓を開けてやればすんなり入ってきた。それに次いでシンジがドダイトスを始めとする大型ポケモンを庭に放つ。
「毎朝野生のポケモンたちにも用意してるのか?」
「そうだね」
「……世話好きな奴め」
「結構楽しいよ」
「兄貴みたいなこと言うな」
 あれから幾ばくか時が流れ、彼と兄との確執も随分軟化したかと思われたが意地っ張りな性格の彼ではまだまだ難しいようだ。思わず苦笑すれば睨まれた。
「そんな睨まないで。怖いね、エレキブル」
「エレキブル、無視しろ」
 トレーナーの性格を熟知しているエレキブルがからからと笑った、そんな週の最初の朝。いつもとは違う始まり方にスリナは胸を躍らせた。

prev   top   next