かようび
この日は雨が降っていた。市街地から離れた位置にあるこの洋館には、雨と露が落ちる音しか響かない。自動車も人の喧騒も、まるで存在しない。静かに暮らすにはうってつけだ。
――がっしゃーん!
「げげげっ!!」
「グァアアッ!!ガァッ!!」
「ドラピオン!相手にするな!ゲンガーもやめろ!」
雨の静寂は一瞬で崩された。音がしたエントランスホールに急げば、飾っていた花瓶が割れており、その傍らではゲンガーとドラピオンが睨み合っていた。シンジはそんな二匹に険しい目を向けている。二匹が喧嘩をしてその際に花瓶が割れたのだとすぐに悟った。
「ゲンガー、落ち着いて」
「げっ!?」
「二匹とも怪我は?シンジも大丈夫?」
「オレもドラピオンも問題ない。……ドラピオン、いい加減落ち着け」
興奮しているドラピオンはいまだに唸っていたが、シンジに窘められある程度冷静さを取り戻したようだ。
「それで、喧嘩の原因は?」
「知らん。いつの間にか口論していてこうなった。……悪かったな、花瓶」
シンジが視線を落とした先にはバラバラになった花瓶。元々洋館に置かれていたものではなく、それなりに可愛く手頃な価格だったからスリナが買ったのだ。「大したものじゃないし気にしなくていいよ」申し訳なさそうにする彼とドラピオンに微笑みかけて箒とちり取りを取りに行こうすれば、背後にいたヨノワールが既に用意していた。ありがとうと礼を述べてそれを受け取る。
「貸せ」
すると、シンジが有無を言わさぬ口調で手を差し出してきた。自分のポケモンが原因の一端を担っているため責任を感じているのだろう。相変わらず変に義理堅い。ここは素直に甘えておこうと渡そうとしたら、二人の間に紫色のものが割り込んできた。
「え?ミカルゲ?」
突然の乱入者にスリナもシンジも目を丸くすれば、ミカルゲはサイコキネシスで箒とちり取りを奪い掃除を始めた。
「あ、ありがとう。でも何で急に…?」
首を傾げたがミカルゲは得意そうな顔をするだけで答えなかった。だがシンジは今ので得心がいったらしく「成程な」と溜息混じりに呟いた。
「何?どういうこと?シンジ何が分かったの?」
「……後で言う」
「今言いなよ」
「……」
「ちょっとシンジ」
いくら急かしてもシンジは答えてくれなかった。それどころか遂に就寝時間になっても、彼はその質問についてはだんまりを決め込んだ。喧嘩の理由もミカルゲの掃除の理由も気になったが、こういう時はしつこくすればするほど彼の口がますます固くなることを経験則から理解していた。納得はできなかったが仕方ないのでスリナは忘れることにした。
その日は夜中まで雨は続いた。