すいようび
午前十時頃、市街地に出かけていた。二人で外に出るのは久しぶりのことである。とはいえシンジとスリナの手持ちポケモン、そしてスリナの影の中にはゲンガーがいるため厳密には二人での外出ではない。どうしてゲンガーも?と疑問に感じたがどうやら昨日のミカルゲ同様、シンジは何故か彼がついて来る理由を察しているようだった。
今日は食料品等を買う為に出かけているが、スリナは道中の雑貨屋で足を止めてしまった。少し見ていいかとシンジに訊ねれば、彼は表情を変えずに二つ返事をした。ちなみにこれが旅の途中だったらおそらく別行動に移っているだろう。彼は雑貨には興味がない。
「可愛いね」
「げげっ」
こっそり顔を出したゲンガーが元気良く返事をする。その背後にいるシンジは興味なげにぼんやりしていた――ように見えたが、実際は違った。
彼の視線の先には、シンプルなデザインの便箋が。
そこでスリナはある出来事を思い出した。それは、二人が道を違えると決めた日の夜のことだ。洋館の管理で旅に出るのが難しくなったスリナが、これから彼がどんなポケモンたちと出会うのか羨望半分で想像していたら彼が手紙を書くと言い出したのである。
『写真も添えたら、どんなポケモンなのか分かるだろう』
まさかそんなことを提案されるとは思いもしなかったのでびっくりしてしまった。まじまじと見つめれば、シンジは煩わしそうにスリナから目を逸らしたのを覚えている。
『じゃあ私、返事出すよ』
手紙の提案はとても嬉しかったのでそう言ったのだが、先程とは違いシンジから却下されてしまった。なんでと訊いてもシンジは理由を明かさなかったのだ。
「――おい、何を笑っている」
当時のバツの悪そうな顔のシンジを思い出していたら、現在のシンジが怪訝そうな目でこちらを見た。
「手紙のこと思い出して」
「……ああ…」
「シンジ、結局住所書いてくれなかったら私から手紙出せなかったね」
「そうだな」
「何で出しちゃ駄目だったの?旅のペースが遅くなるから?」
消印からして彼はポケモンセンターから手紙を出していたようだった。スリナからの返信を待つにはそれなりの日数がかかる。ポケモンとバトルのことしか頭にない彼からすれば、手紙の返事を待つなんて寄り道でしかないだろう。
彼の性分など分かり切っていたので特に何も思わずにそう述べれば、彼は微妙に顔を歪ませた。
「別にお前の手紙が煩わしいとか、そういう理由じゃない」
「じゃあ何で?」
「それは――」
言葉を続けようとしたら、突然シンジがたたらを踏んだ。ゲンガーに背中を押されたのだ。
「駄目だよゲンガー、人を押しちゃ。それにお店の中だしモノを壊しちゃうかもしれないでしょ」
「……」
「げ〜」
反省しているのかいないのか、いまいち分からない声音で返事をしたゲンガーはまた影の中に消えていった。
「昨日からどうしたんだろ。…シンジごめん、ゲンガーは悪い子じゃないと思うんだけど…」
「いい。……、理由は分かっている」
「え?」
どういうことだと見つめてみても視線は交わらない。彼の視界にあるのは、売り物の便箋だけだ。「買ってく?」あまりにも熱心に視線を注いでいたので訊ねてみれば、ややあって彼がかぶりを振った。
「必要ない」
「げ!げ!」
ゲンガーが間髪容れずに買えとばかりに声を出す。たまたま近くにいた客が唐突に現れたポケモンに目を剥いた。
「お前は何か買わないのか」
「私はいいかな」
「じゃあ出るぞ」
そんな客など見えていないかのようにシンジは動揺している客の目の前を通り過ぎる。相変わらずな彼に苦笑し後を追う。ゲンガーは、いまだ不満そうにしていた。