もくようび
雨の気配が完全に消え去った木曜日。シンジと共にポフィン作りに勤しんでいたら、くさタイプのポケモンたちが庭に集まっていることに気がついた。チェリンボにその進化系のチェリム。ナゾノクサ、ロゼリア。彼らを導いてきたのはヌケニンとヤミカラスらしい。珍しい組み合わせだ。そもそもヤミカラスはこの洋館に棲み着いていない。彼らは洋館から少し南に下ったところの森に巣を作っており、そこで暮らしているのだ。
ポフィンを作る手を止め、窓の外にいる彼らを見つめていればシンジがどうしたと話しかけてきた。
「あれ、何してるのかな」
「?」
スリナを手伝っていたムウマやカゲボウズ、ジュペッタたちも一様に外に目を向ける。すると一匹のムウマがきのみを宙に浮かせた。
「……ヌケニンがきのみの自慢をしてるの?」
当てずっぽうだったが彼女の嬉しそうな顔色からして正解らしい。
確かにヌケニンはここに棲み着いているどのポケモンよりも、庭に植えられているきのみに心を砕いている。彼がきのみを育てたと言っても過言でない。先日瑞々しいきのみが生ったこともあり、育てた者がそれを自慢したいと思っても不思議ではない。
「でも何でヤミカラス?」
どうやらスリナの知らないところで知己になっていたようだ。野生同士のコミュニティは謎めいている。先程からヤミカラスがヌケニンと同じ立ち位置にいることからして、もしかしたら彼もきのみ栽培に一役買っていたのかもしれない。
「…ヤミカラスたちにもこのポフィンあげたいけど、食べてくれるかな」
今作っているポフィンには、庭でできたきのみを使っている。一緒に育ててくれたヤミカラスには特に食してもらいたい思いで呟けば、自分が誘ってみるよとばかりにジュペッタが胸を叩いた。
「良かった。じゃあもう少し材料を足さないと。シンジ、そこのきのみ取って」
「……………」
「シンジ?」
「………」
「ねえ、シンジってば」
「!」
ぼんやり窓の外を眺めていたシンジはぴくりと肩を震わせた。
「聞いてた?」
「済まない、聞いていなかった」
「ヤミカラスやチェリムたちにもポフィンあげるから、そこのきのみ取ってほしいんだけど」
「…ああ」
彼からきのみが入った箱を渡されるが心ここにあらずといった様子だ。思わず顔を覗き込めば漸く目が合った。
「お前は…」
彼の薄い唇がぽつりと言葉を漏らす。
「お前は、いつもこうなのか」
「え?」
「こうして野生のポケモンたちと、ふれ合っているのか」
奇妙な質問だ。首を傾げたが、大体いつもこんな感じなので素直に頷いた。瞬間、彼の三白眼が僅かに揺らぐ。
「…、そうなのか」
「どうしたの?」
「いや…何でもない」
「そんな風には見えないけど…」
「お前は気にするな」
もういつもの彼に戻っている。無表情の横顔からは何も窺えない。
最近…というより、ここに来てからシンジの様子がどこかおかしいことは理解していた。だが彼が頑なに打ち明けようとしないため、スリナは敢えて知らないふりをしていた。しかし先程の一瞬揺らいだ瞳を目撃してしまい、果たしてその行動が彼にとって良いことなのか分からなくなってしまった。深く訊くべきか、否か。
「うーん…(でも下手に訊いたら拗れそうな気がする)」
「おい、変な顔をするな」
「ヘン?!」
失礼な…と睨めつけるがシンジは素知らぬ顔で具材を混ぜ続けていた。
結局、何も訊けずに今日が終わった。