どようび

《えっ、シンジ帰ってきてるの!?》
「知らなかったんですか!?」
 端末越しの相手は初耳だよ!と驚いている。
 声の主はシンジの兄・レイジだ。彼はスリナが洋館の管理を担うようになってからたまに遊びに来てくれるようになり、管理を始めてからはシンジよりもレイジと親しくしてもらっている。そして連絡先を交換していることもましてや二人きりで交流があることもシンジは知らない。
 ちなみに今日、シンジはかつて大会で戦ったジュンという少年からバトルに誘われ、街に赴いている。そういうわけでスリナは大っぴらにレイジと連絡を取っているわけだ。
「てっきりレイジさんのところに行ってからこっちに来たとばかり…」
《ただの帰省ならそうしただろうけど》
 実家に帰っていないのなら帰省目的ではない。やはり、昨夜のいつまでここにいるんだ発言が今回シンオウ地方に戻る理由だったのだろう。その割には彼はまったく事の真相を話そうとしてくれないが。
《シンジが急にお邪魔しちゃってごめんね。迷惑してない?》
「全然大丈夫ですよ。むしろ家事とか手伝ってもらって大助かりです」
《うわ〜スリナちゃんのお手伝いしてるシンジとかめちゃくちゃ見たい》
「そんなこと言ってるとまた減らず口叩かれますよ」
 レイジは大笑いした。弟の気性をよく知る兄からすれば減らず口など可愛らしい個性のようだ。
「一度レイジさんにも顔を見せるように言っておきましょうか?」
 気を遣ってそう提案してみたが、ややあってレイジは必要ないと断った。
《今回は帰省目的じゃないみたいだからね。邪魔したくないよ》
「はあ」
《その様子だと、スリナちゃんはシンジが何でわざわざこっちに来たのかてんで分からない……といった感じだね》
「その通りです。レイジさん分かるんですか?」
《まあ大体はね》
 流石兄弟である。理由は何なんですかと続きを促せば、どういうわけか笑われた。予想外の反応に言葉が詰まる。
《んー、教えてあげたいのは山々なんだけど……俺が教えたら流石にシンジが可哀想だからなぁ》
「可哀想…?」
 奇妙な物言いに引っかかりを覚えたがレイジはスリナの反応に構うことなく話し続ける。
《あいつ何でもストレートに言い過ぎちゃうところがあるけど悪い奴じゃないから。だから、シンジのことよろしくね》
「え?あ、はい。それはもちろん」
 何で急にそんなことを言うんだろう――スリナの頭は疑問符でいっぱいだった。
 レイジはスリナの迷いのない返事に満足したのかじゃあよろしくねと会話を締めくくって電話を切ってしまった。別れの挨拶を返す隙もなかった。先程の言葉の意味の追及を逃れる為だろう。少しくらいヒントを言ってくれたっていいのに、と思いながら役目を終えた端末を睨む。
「うわっ」
 急にふくらはぎを押されたので足元を確認したところ、すぐ傍にミカルゲがいた。特徴的な緑の口角は下がっている。
「どうしたのミカルゲ」
「……」
 いつもなら愉快な声を上げるのに今日は沈黙を保ったままだ。不機嫌なことでもあったのだろうか。気になったもののこういう時は下手に触れないほうが良いだろう。おやつにしようかと誘えば、口角は下がったままなものの素直について来た。
 がしかし、シンジの分のおやつも用意すれば、やはり不機嫌そうにふくらはぎを突っついてきた。

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