にちようび
一週間。スリナと再会し、一週間が経過した。シンジはスリナに今日頼まれていた食器を洗い、棚に戻してから庭に出た。見事な晴天だ。初めて彼女に出会った日もこんな清々しい空だったと思い出す。
「スリナ―――」
スリナは庭に備えつけられていたベンチに座り、うたた寝をしていた。どうやら浅い眠りらしく、背中はまっすぐだが頭はうつらうつらと揺らいでいる。ベンチの背にはムックルとムウマ、足元にはきのみを食べるスボミーに眠っているコリンク、ミカルゲが集まっていた。頭上にはフワンテがふわふわと浮いていて、屋根にはフワライド、ゲンガーが休んでいた。
これらのポケモンはスリナの手持ちではなく、野生だ。
スリナは昔からそうで、野生のポケモンとすぐに仲良くなれた。おそらくそういう星の下に生まれたのだろう。
足音を立てないように静かに近づいたが、ポケモンたちはすぐさま第三者の接近に気づいてササッと逃げてしまった。ミカルゲだけ微動だにせずシンジを睨めつけていたが、距離を置いていたムウマやフワライドにより連行された。視線は突き刺さっていたが構わずスリナの隣に腰をかける。スリナはシンジに気づかず目を閉じたままだ。彼女の隣は心地良く、穏やかで、知らぬ間に陽だまりにいるような、そんな気分にさせる。
ぐらり。柔らかい体が揺れる。不意打ちであったため、自分の右半身で彼女を受け止める羽目になった。右側が急激に熱を帯びる。自分と彼女の手の甲が触れ合っている。それを確かに掴む度胸が、シンジにはない。
出会った当初は特に何も感じていなかった。ただ彼女は明確な目的を持っていなかったので、随分あやふやな旅をしているんだなと、そういう感想を抱いた。シンジ自身誰かと一緒に旅をするつもりもなかったので、のちに興味本位でシンオウの旅に同行した彼女に対し何だコイツ、と思わなくもなかったが、彼女の洞察力やバトルの考え方に共感に近い感覚を得たため彼女と旅をするのが段々当たり前になっていった。スリナがどうして旅に出ていたのか、どこでポケモンバトルの知識と経験を得たのかは知らない。そんなことを知らなくても一緒に旅をしていたいと、思うようになった。
自分がスリナを好ましく感じていると自覚したのは、スズラン大会が終わってからのことだ。シンジのシンオウでの旅の終着点はリーグ大会。これが終わってしまった以上、スリナと共に旅をする理由はない。しかしここでシンジは、彼女と離れるのは惜しいと思ってしまった。
『お前どうせ暇だろう。……キッサキシティまで、ついて来るか』
『暇って酷くない?まあ暇だけど。もちろん行くよ』
『……フン』
生まれて初めて、なんの縁もない赤の他人に執着した。
キッサキシティで過去との決別を果たし、スリナが次の旅への同行に頷いてくれた時の胸の高鳴りは、強敵と相対したものとはまた違った高揚感だった。
だがシンオウを旅し、イッシュで別れて暫く。彼女が隣にいることが当然だったので、ぽっかりと空いた空洞に薄ら寒さを覚えるようになってしまっていた。そんな状態でスリナから手紙の返事を受け取ってしまえば途端に会いたくなってしまう。寂しさが増してしまう。それが分かり切っていたから敢えて返事を断ったのだ。
――まあ、こうして結局来たが。
スリナに話した『これからのことはまだ考えていない』という言葉は嘘ではない。ただそれは、旅先が未定というわけではなく――スリナにある提案を持ちかけるか否か、ということだ。
この一週間、彼女と共に生活をし、やはりその隣にずっといたいと改めて思った。過去に縛られていた、以前の自分では抱きもしない感情だ。
歳を重ね、自分が変わったことを実感する。
「スリナ」
柔らかな感触を右側に感じれば自然と口調が和らいだ。そこでシンジは今まで言えなかった言葉を漸く口にすることができた。
「また一緒に、旅をしないか」
傍にあった彼女の手は、無意識の内に握っていた。