ぬくみ

 空を見上げれば、雲行きが怪しくなっていた。
「雨宿りできるところを探すか」
 シンジの言葉に首肯する。
 二人は某地方の森の中を歩いていた。街を出る直前に見た天気予報では今日一日は晴天だと言っていたが、どうやら急変したようだ。こうして一言二言話している内にも空はあっという間に曇天色に染まってしまっていた。そして遂に、スリナの鼻先に雨が落ちた。
「わ、…」
「来い」
 腕を取られ早足で歩く。草花はもう露に濡れていた。
 シンジに引かれるまま歩いていけば洞窟に到着した。こんなところがあるなんて気がつかなかった。シンジはスリナより視力が良いらしい。
「寒いね」
「前から思っていたが、お前は寒がりだな」
「シンジが寒さに強すぎるだけだよ」
「……そういうものか」
 火を起こして暫く。外は土砂降りだった。霧も出ているようで、一寸先がぼやけて見えない。こんな中を歩くのは危険すぎる。彼が雨宿りできるところを発見してくれたのは幸運だった。
 上着が雨に濡れたので二人とも簡易毛布を羽織る。柔らかな肌触りが気持ち良いが、体の芯までは温められない。火の目の前にいるもののスリナの寒気が治まることはなかった。手に息を吐きかけても温みを感じるのはほんの一瞬。指先は相変わらず冷えている。
「スリナ」
 そんなスリナを見かねたのか、シンジが少し呆れながら名を呼んだ。どうしたんだと彼に目を向ければ、彼は黙って左側の腕を広げた。
 言わんとしていることを察し、少々面食らう。黙って見つめていると早く来いとばかりに睨めつけてきた。彼の鋭い三白眼にハッとすると、スリナはおずおずと歩み寄りシンジの左側に腰を下ろす。シンジはスリナがきちんと座ったことを確認すると右手で毛布の左端を引き寄せた。彼の左手は、スリナの左肩に置かれる。あまりの距離の近さに一瞬呼吸が途絶える。
 それなりの年月を一緒に生きてきたからか、彼の体が少し大きくなっていることにたった今気がついた。出会ったばかりの頃はスリナのほうが身長が高かった。だけど今では、こうしてスリナを腕で包めるくらいには差が広がっていた。思わず横顔を盗み見るが、相変わらずの無表情が炎の明かりに照らされているだけで何も窺い知れない。しかし、彼の瞳の中に冷たさはなかった。
 寒さなんて、もう感じなかった。シンジの体温と、息遣い、心臓の音。それだけが今の世界の全てだった。もしかすればその忙しい鼓動は自分のものだけだったかもしれないが、それでも自分の右側で感じる拍動に、スリナは安心感を抱いていた。

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