むかしのしゃしん

「ちょっと見てよこれ!」
 ある日の午後、シンジはスリナと一緒に帰省していたところ、レイジがあるものを持って駆け寄ってきた。紅茶片手に次の公式戦についてパーティ談義をしていたのに水を差され、少しばかり眉根が寄る。しかしレイジはそんなことはまったく意に介さず嬉しそうに破顔した。
「これ!スリナちゃんがウチに初めて来てくれた時に撮った写真!」
「え?」
「シンジとスリナちゃんめちゃくちゃ幼くて可愛いな〜」
 そこにはおそらく不意打ちでカメラを向けられたためキョトンとした顔のスリナと、エレブーに視線を投げているシンジが写っていた。懐かしいよね!と和気藹々として語る兄だがそもそもシンジはこんなものを撮られた覚えがない。写真の中の自分は完全に余所見をしているし、兄は弟に気づかれないように盗撮したのだろう。傍迷惑な話である。
 がしかしここでシンジはあることに気づいて思わず隣のスリナに目を向けた。
「うわ本当に懐かしい…」
「この頃のシンジはまだスリナちゃんにもツンツンしてたよね」
「あはは、今でもたまにそうですよ」
 仲良さげに話すスリナの、頭頂部。
 ――この時はまだこいつのつむじ、見えてなかったな。そういえば。
 そう、写真の中のシンジはスリナより小さかったのである。この年代は総じて女の子のほうが成長が早く、身長も高い。だからこれは普通のことである。がしかし、思うところがあった。
「どうしたのシンジ」
 ずっと見られていたことに気がついたスリナが訊ねる。
「お前小さくなったな」
「…は?」
 一瞬何を言われたのか分からなかった彼女は怪訝そうにしたが、チビ呼ばわりされたと思ったのだろう、すぐに険しい顔つきになった。
 一連の流れを見ていたレイジが噴き出す。
「レイジさんなに笑ってるんですか!」
「いや……ちょ、ごめん、…くくく」
「笑い事じゃないですから!私低くないですよ!平均です!」
 むくれて抗議するスリナ。「ごめんね。お詫びに新しい紅茶淹れてきてあげるよ」レイジはそう言うないなや、準備の為にそそくさとキッチンへ逃げてしまった。その背中を一瞥して冷静になったスリナはシンジと向き直る。
「……ねえ、この写真見たら普通大きくなったなって言うんじゃない?」
 心底不思議そうに訊ねる彼女に特に返さず、シンジは黙ってその綺麗な形の頭を撫でた。唐突な愛撫にスリナは更に困惑したようだが、それを気にすることなく髪に指を通す。少しの無音。外界から絶たれた世界で、彼女の瞳と己のそれが交錯する。シンジは不意に何か言葉を紡ぎたくなり、唇を薄く開いたところ――
「あのーイチャついてるところ悪いんだけど紅茶持ってきたよ」
 現実に引き戻された。
「まあ自宅だから良いんだけどさ、俺もいるってこと忘れないでね」
「っ別に何もしてない!!」
「ハイハイ」
「れ、レイジさん……」
「スリナちゃんも、もし嫌なことされたらちゃんと嫌って言うんだよ?遠慮しちゃ駄目だから」
「兄貴ッ!!」
 レイジの言葉に釣られるようにスリナの頬が紅潮する。シンジはひどく不愉快な気分になり彼女から写真を奪い取ると自室へと足を向けた。「あーあ拗ねちゃった」「も〜レイジさんったら」背中で二人の会話を受け、もう一度写真に視線を落としたところ視界の端で彼女の衣服を捉えた。
「?」
「次のパーティ構成、まだ途中だったじゃん。シンジの部屋でしよ」
 紅茶が入ったカップを両手で持ってにこやかに笑うスリナと、手中でぎこちない表情をするスリナ。今の自分たちの空白は拳一つ分ほどしかないが、写真の中では歩幅二歩くらいの距離があった。しかしこの頃から彼女が旅に同伴することに違和感を覚えなくなっていた。そしてスリナは今、シンジの隣にいる。
「あっまた撫でる……なんで?」
 音もなく突然頭を撫でだすシンジに始終不思議そうにしていたスリナであったが、シンジはその理由を告げなかった。
 余談だが、その姿をレイジがまたもやこっそり写真に納めていたことは、彼のみぞ知ることである。

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