01
※「いっしゅうかん」後の話。シンジスリナ16歳前後(未交際)、サトシ14歳設定です。
「ジムリーダーのスカウトが来た」
あまりにも唐突すぎる報告だった。シンジは、相変わらずの無表情で、その言葉を口にしたのだった。
「は、」
「返事はまだしていない。少し…考えたい」
勉強不足だしなと続ける彼に、いまだ何も言えない。驚きによるものなのか、それとも別の感情によるものなのか、分からない。
二人は現在、アローラ地方の某所にいた。この地方特有のゆったりした空気に当てられ二人とも少しバカンス気分に浸っていた。少なくともスリナはそう感じていた。しかし彼の告白に冷水を浴びせられた。暑い地域だというのに、自身の体の芯は冷えている。
「そう、なんだ」
漸く一言を振り絞った。おめでとう、とも。正直心の底からその言葉を使うことはできなかった。戸惑いのほうが大きかったからだ。
スリナの心情を感じ取ったのか、シンジは少しばかり眉を寄せた。
「決まったわけじゃない。別にめでたくないぞ」
「あ……そっか」
「取り敢えず一度シンオウに戻りたい。良いか?」
「あ、うん」
なんとも情けない声だ。
シンジはスリナの返答を聞くと部屋から出て行った。宿泊日の短縮申請と船のチケットを予約しに行ったのだろう。彼は自分から言い出したことにより発生する手間は、全て自分一人で済ませようとする。そういう妙なところで垣間見える律儀さをスリナは非常に好ましく感じていた。
――シンオウに戻るの、わたしも一緒なんだ。
――一緒に連れて行ってくれるんだ。
当然のようにスリナに許可を求めた彼。本来そんな必要は一切ないのにと思いつつ、わざわざ伺ってくれたことを嬉しく思う。
がしかし、不安があった。最初に彼の話を聞いた時点で溢れた不安。それは今も消えない。
――もしシンジがジムリーダーの話を引き受けたら…。
「スリナ」
いつの間に戻ってきていたのか。シンジの呼びかけに驚く。
「あさっての朝ここを発つ」
「分かった。じゃあすぐに準備しないとね」
「ああ。…悪いな」
「なんで謝るの」
らしくないよ、とおどけて言ったものの彼は難しい顔をやめなかった。
*
シンオウ地方でよく宿泊している場所といえば専らシンジの実家だ。彼の兄のレイジには本当に世話になっている。レイジは常に快く迎え入れてくれるが、やはり申し訳なさはあるのでスリナは毎回手土産を持ってきていた。今回も少しお高いアローラのお土産を用意してやって来た次第だ。いつもと同じく、シンジはそんなものは要らないのにと不思議そうに呟いていた。
「スリナちゃんも帰ってきてくれたんだね!おかえり!」
「いつもすみません…今回もお世話になります。これどうぞ」
「えっ、またぁ!?スリナちゃんは本当に気遣い屋さんだな。俺と君の仲なんだからそんなのいいのに」
「おい何だその言い方」
「あ、ゴメンねシンジ。お前が心配するようなことじゃないから」
相変わらずの余裕な態度。本当に兄弟で性格が違うんだなと感心する。それとも歳の差故なのだろうか。
「ゆっくりしていってよ。ていうかずっといてくれて良いからね」
そうして彼はいつもと同じ言葉を口にした。