その後の平古場の勢いは凄かった。自分でも驚いてしまうくらい調子が良く、何を言われても笑って返せる余裕があった。
 そして夕食の時間が近づいた。平古場は最早スキップするような勢いで梨胡の部屋に向かう。行く時に木手に冷めた目を向けられたが気にしない。
 ノックを三回して、彼女を呼ぶ。
「本当に来てくれたんだ」
「当たり前やっしー!」
 梨胡はすぐに出てきた。夕方の時変わらず、左足が不自由そうだったので手を引いて食堂まで案内する。(いいばーやさ、わんの勝ちやっしー)不二や白石の顔を思い浮かべ、ざまあみろとほくそ笑む平古場。
 食堂に入り、彼女の分のくじも引いてやる。
「姉ちゃん、大丈夫?」
 丁度その時、弟のリョーマが声をかけてきた。クールで生意気だが、やはり姉のことは心配なのだろう。
 すると他の青学のメンバーもわらわらと集まってきた。
「大丈夫。安静にしておけば問題無いって」
「にゃ〜!梨胡ー!平気?何かあったら俺が梨胡を運んでやるにゃ〜」
「…先輩、困ったことがあったら言ってください。俺がやるんで」
「マムシに務まるかよ〜。俺がやったほうが良いって〜」
 何だろう、この疎外感は。いや元々自分は他校の人間なのだからこの疎外感はある意味当たり前だ。しかしだ。梨胡をここまで連れてきたのは自分だし、一番最初に彼女を気遣ったのも自分だ。なのに何故こんなにも気後れしなければいけない?――――現在、平古場の脳内には嫉妬が溢れていた。
「梨胡」
 そして何より不愉快なのは、彼だ。
「膝を打ったんだって?」
「うん」
「君の綺麗な脚に傷が残らなければ良いのだけど…」
「まったく…またそんなこと言って。キザだよ。でもありがとう」
「僕は本当のことを言っただけなんだけどな」
 (ぐぬぬぬ…不二ィ…)歯の浮くようなセリフをよくもまあ平気で吐けるものだ。しかしさらっと梨胡に流されている。ふはははどうやっしー!梨胡はそんなことじゃあときめかんさー!などと心中で叫んでみる。
 「………あ」ここで平古場はくじを握りしめていることを思い出した。くしゃりと丸まっている二枚の紙を、破かないようにゆっくり広げる。出てきた番号はそれぞれ違っていた。途端、先程の高まっていた気持ちは墜落した。
「梨胡のくじって平古場が持ってるんだにゃー?」
 そう言うと菊丸は平古場が持っていたくじの一つを抜き取る。
「わーい俺と一緒だ!」
「そうなの?」
「一緒に行くにゃー」
 すると菊丸は梨胡の手を取ってさっさとテーブルに向かってしまった。「ちょっと菊丸……平古場、連れてきてくれてありがとうっ」振り向いてそう言った梨胡に、平古場は微妙な笑みを取り繕うしかできなかった。
「凛、へこたりてぃちゃ駄目さー」
「次ですよ、次」
 甲斐と木手にバシッと背中を叩かれたが、平古場は暫く立ち直れなかった。
波で攫ってゆけたなら


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