スルースキルは高くなくていい


「地下の遊び場?」
 目の前の彼・山崎の言葉を反芻する銀時の表情は、ひどく怪訝なものだった。いつかの煉獄関だの何だの趣味の悪い闘技場を思い出す。
「何でも天導衆が間接的に関わってるとかないとか…」
「おいおいンな曖昧な情報教えられても嬉しかねーぞ」
「旦那の場合、こういうキナ臭いことに縁があるし一応忠告しておこうと思いまして」
「うるせーよ余計なお世話だっ」
 拗ねた表情で銀時は団子を頬張る。因みに代金は山崎持ちだ。何故自分なのか山崎は分からない。どういうわけか忠告してあげているのに口車に乗せられ、いつの間にか向こうが財布を握っていた。
 アルバイトの綺麗な女性の手の中に羽ばたいていく野口を涙目で見つめながら、山崎は続ける。
「表向きはただの娯楽施設とか政治関連施設があるみたいなんですけど、裏は攘夷に関する取り締まりをしているらしいんですよ」
「取り締まり?それお前らの役目じゃねーの?」
 尤もな彼の疑問に山崎は肯定する。
「本来なら俺ら真選組の役目なんですけど…そこがよく分からなくて。具体的にどんなことをやっているのかも分からないんですよ」
「ふーん」
「俺が言うのもなんだけど…旦那も充分注意してくださいね」
「何で?」
「だって旦那…白夜叉じゃないですか」
 戸惑う山崎とは反面、銀時はひどく興味無さげに「ああそうだなぁ」と答える。
「…ま、気を付けるわ。つーか何でそこ調べてんの?」
「元々は攘夷志士と幕僚の何者かが内通している疑いがあってそれを調べてたんです」
「で、行き着いたのがその遊び場?」
「はい」
 攘夷志士ねェ、と言いながら銀時はまた一つ、団子を食べる。彼の脳裏には幼馴染の桂と決別した高杉の顔が浮かんだ。
 カラン。串を置いて立ち上がる。ダルそうな出で立ちの銀時を山崎はなんとなく見上げる。
「……今の俺に、捕まる理由は無ェよ」
「旦那がそう言っても、実際いつ国家反逆罪で捕まるかしれませんよ」
 窘めるような山崎の声音に少し笑い、銀時はその場を後にした。
 団子屋を去った彼が向かった場所はからくり堂だった。彼女と出会ってからできた心のしこりのようなものが、執拗に銀時に警告していた。それに急かされるように銀時の歩くスピードは速くなる。気づいた時には走っていた。
 からくり堂の外では源外が作業していた。銀時に気づいた彼はスクーターを使っていない彼を訝し気に見つつ、よお、と挨拶がてら手を挙げた。
「燕は?」
「あ?燕なら中に居るが…」
 慌てた銀時を心底不思議そうにし、源外は素直に彼女を居場所を吐く。銀時は彼を押し退けズカズカと中へ入った。「燕!!」彼女の名を呼ぶ。すると一拍ほど開けて客間が開いた。道具箱を両手で持って燕は客間から出てくる。
「あ、どうも」
 淡い栗色の髪を揺らして、燕は銀時に近づく。
「…万事屋さん?」
「…――ッあ?」
「どうしたんですか」
「え…ああ、いやね、うん…燕に会いたいなーって思って…」
「? はあそうですか…」
 ひどく安堵した顔の銀時に首を傾げながらも燕はお茶を出してくれるとのことで客間に通してくれた。
 「ちょっと待っててください」そう言い残し、燕は台所に入る。そんな中、彼女が銀時の横を通った時、不思議な匂いがした。いやそれだけではない。客間に入った時からこの匂いは感じていた。
「なあ燕」
「はい?」
「お前…煙管とか吸うの?」
 彼の質問に、お茶を用意していた食器の音が一瞬止まった。
「いえ…さっき来たお客さんが吸ってたんでさァ」
「ふーん、そっか」
 すんと吸うと紫煙の匂い。まさかな、と自分の馬鹿げた考えに頭を振り、彼女がお茶を運んでくるのを大人しく待った。
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