2016/10/10HB銀時


「燕〜」
 十月十日、銀時はからくり堂に居座っていた。どういうわけかそわそわとする彼に燕は怪訝そうな目を向けるものの、特に理由は訊かずに仕事に励む。
「ねーねー燕ちゃーん」
「何ですかィ万事屋さん。仕事の邪魔するなら帰ってくれやせんか」
 何をするわけでもなく、ただ名を呼ぶ銀時に燕は少々呆れる。彼の声音は期待の色を乗せている。それは何故だろうと考えてみても、答えが出ることはなかった。
「俺さあ、今日誕生日なんだよね」
 というか、考える暇もなく暴露される。
「……へえ。そりゃおめでとうございます。三十路まであと幾つですかィ?」
「そういうこと訊くのやめてくんない?……ていうかさ、ハイ」
 そう言って差し出されたのは彼の掌。その大きな掌にところどころ豆ができているのは木刀をよく握っているから。普段ちゃらんぽらんな分、男らしい部位を見せつけられて多少面食らったものの、燕は銀時のその行動に疑問符を浮かべる。
「えっと……?」
「いやだから、プレゼント頂戴」
「…………………はぁ?」
 この男、あろうことか図々しくもプレゼントを要求してきたのだ。くっと眉根が寄ってしまったのは仕方のないことだろう。
 とはいえ彼にとっておめでたい日であることは事実。彼にはお世話になっていないわけでもないので、燕は咄嗟に頭を巡らせて何かプレゼントを探した。
「…どうぞ」
 丁度良いものがあったので渡す。何これ?と訊いてきた彼に燕は答える。
「ケーキバイキングの割引券でィ」
「マジで!?やったあああ!!………ってこれ今日までじゃねーかァァ!?」
 そうなのである。この割引券、数日前に貰ったのだが仕事が立て込んでいたので結局使えず終いで終わりそうだったのだ。
「あっし行けないんで万事屋さん、神楽さんでも連れて行ってきたらどうですかィ」
「あいつ今新八ン家いんだよ」
「じゃあ一人で行ってきてくだせェ」
「誕生日なのに何で一人でケーキ食わなきゃいけねーんだよ!!燕、一緒に行こうぜ!」
「あっしァ暇人な万事屋さんとは違って仕事があるんでィ」
「お前はホント一言多いな!?おいジジイィィィ!若い奴を労働で縛りつけて良いのかよ!?燕が過労死するぞ!あと何かプレゼント頂戴!!」
 ちゃっかりプレゼントまで要求するのは流石である。呆れた視線を送って、燕はまた絡繰と向き直った。
「ちっ、うるせーなぁ銀の字。じゃあ俺からは独り身な悲しいおめえさんに今日一日燕をやるよ」
 しかし、源外のその発言により燕の視線は上がった。
「、は」
「マジで!?」
「おう行ってこい。ケーキ屋に男一人の図って悲しすぎるからな」
「よっしゃァァァ!じゃあ燕、早く着替えて行くぞ!」
 ぐいぐい腕を引っ張る銀時を他所に、燕は源外に非難めいた視線を投げた。がしかし、彼はそんなものなどものともせずに笑うと「たまにはデートしてこい」と燕しか聞こえない音量で言った。
「デートって……別に付き合ってないし」
「んあ?どうした燕〜」
「……なんでもありゃしませんよ」
 気遣われたのなら仕方ない。燕は箪笥の奥にある外行きの着物を思い浮かべてから、銀時の背中を見つめた。
「万事屋さん」
「あ?」
「…お誕生日、おめでとうございます」
 そう言うと、銀時は珍しく照れくさそうな顔をして「…おう」と呟いた。

「万事屋さん、そんな勢いで食べなくたってアンタのケーキ取りませんから」
「もぐもぐもぐごくんっ……久しぶりのケーキだぞ!?とにかく食えるだけ食っとかなきゃいけねー!燕も早く食え!誰か(主に神楽)に見つかっちまったら取られるぞ!」
「……(これデート、なのか?)」
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