12.ファクトリーとジーニアス

《ホウエン地方で開催されたポケモンコンテストうつくしさ部門では、マコトさんとキュウコンが優勝しました!それではマコトさんのキュウコンの演技をご覧ください》
「あの子ホウエンに行って何してるの…」
 ピピピ…と一定して部屋に機械音が響いている。パソコンやケーブルだらけの部屋に設置されているソファには、特徴的な髪をした青年が座っていた。
 偶然点けたテレビに知り合いの姿が映し出されている。久しく会っていないが、メールでのやり取りはやっている。つい最近のメールでは軽く喧嘩腰の内容だった。二人は顔を合わせれば即皮肉の応酬を繰り広げることで有名だ(だがそんな姿もある人からすればそれは愛情の裏返しというものらしい)。
 青年はモンスターボールを磨きながらも、彼女が映る映像をしっかり捉えていた。キュウコンが炎に包まれている映像に、そういえば最近ロコンが進化したって言ってたな、と思い出した。どうやらブリーダーとしての力量は衰えておらず、画面越しでもキュウコンの毛艶の良さが伝わった。
「マコトってコンテストに興味とかありましたっけー?」
 声に出して自分に訊ねる。だが思い返してみても、彼女がコンテストに興味をそそられるような姿を見たことは一度も無い。成程向こうで誰かに誘われたな、と彼は考えた。
 モンスターボールを磨く行為をやめ、ふうと息を吐く。するとその直後にモンスターボールから赤い光が洩れた。
「…駄目ですよアルセウス、勝手に出ちゃ」
 四つ脚で純白の体躯のポケモン・アルセウスは彼の発言を気にすることなくその場に座った。アルセウスもマコトのことが気になるのだろうか。
《いやぁ期待の新人ですね!》
《これからのマコトさんの活躍に期待しましょう。では次のニュースです…》
 ニュースが変わったのでテレビを切る。
「…マコト」
 久しぶりに彼女の名前を紡ぐ。言の葉は呆気ないほど部屋の中に浮かんだ。
 彼女がホウエンに行ってからは画面越しでしか彼女に会っていない。久しぶりにバトルがしたいなと普段では絶対にない欲求が生まれる。マコトの強さは本物だし、実際彼女は四天王にも負けない実力だ(だが彼女は一回もリーグに挑戦したことは無いらしい。勿体ないと青年はつくづく思う)。
 そんな中、パソコンがメールを受信した。差出人はマコト…ではなく、青年が務めているこの施設の関係者だ。メールを開封して中身を確かめる。内容は挑戦者が十九戦目で負けたということだった。上手く勝ち進んで二十一戦目に到達すれば挑戦者は青年と戦えた。つまりこの報せは今日の彼の仕事は無しというものである。
 何度も見たことのある文面に、青年は大きな溜息をついた。マコトなら自分のところまで登り詰めてくれるのにと思いながら。
「ヒマだなー…」
 自作の端末をいじってもそれは改善されることはない。青年は端末を放り投げた。それで壊れてしまうほどこの端末は柔な造りではない。
「…帰ってきてほしー、かも」
 不意に洩れた彼の本音に、アルセウスはクウンと一鳴きした。