13.NOT乙女修行

「マコトは女っ気が無さすぎるよ!」
「…いきなりなんですかー」
 某所、フエンジムのジムリーダー・アスナと偶然出会ったマコトは、彼女からお茶に誘われてカフェで寛いでいた。それぞれ近況報告をし合った途端、アスナは急に冒頭の台詞を吐き出した。いきなり暴言を吐かれたマコトは若干眉根を寄せる。
「だってだって!マコトの得意なことってバトルとか育成とか機械弄りとかでしょ!?」
「そうですね」
「そんなんじゃあダイゴさんの心を掴めないよ!!」
「…君は先程から何を言ってるんですか」
 アスナの言いたいことが分からないマコトは、少し溜息を交えた。そんな彼女を不服そうにアスナは見、「だからァ」と声を荒げた。
「明らかに料理とか掃除とか下手そうなイメージじゃんそれ!」
「実際そうですけどねー」
「やっぱり男の人をオトすには胃袋を掴むしかないでしょ!?」
 興奮気味に話すアスナをマコトは冷めた目で見つめる。何か言ったほうが良いかと言葉を考えた矢先、ポケットの中で端末が振動した。「誰?」「ダイゴさんからです」「仕事?」「…いえそういうわけでは」メールを確かめながら答える。「ただ単に呼び出しみたいですねー」
「済みません、失礼します。今日は誘っていただきありがとうございました」
「いいよーそれよりもダイゴさんによろしくね!」


「…遅くなりました」
「おかえりー」
 ムクホークを飛ばして帰ってきたのでそんなに遅くはなってはいない。しかし気遣いのできる彼女の物言いに、ダイゴはつい頬が緩んだ。
 「…?何か作ったんですか?」鼻をすんすんと鳴らしてマコトはキッチンを見る。
「お腹空いてるだろう?」
「まあ確かに…もうお昼ですしねー」
「だからオムライス作ったんだ。勿論マコトの分も用意してあるよ」
 ダイゴの言葉にマコトは珍しく目を見開いて驚いた顔をした。ダイゴさんって料理できたんですね、そんな感想がつい洩れる。ダイゴは二人分の料理をテーブルに運ぶ。皿の上には半熟たまごのオムライスが乗っていた。
「どうぞ」
「い、いただきます…」
 ダイゴの少し緊張した微笑を一瞥し、マコトは戸惑いながらも一口食べた。 熱々でとろりとしたたまごがケチャップ味のライスと見事な塩梅を創り上げている。
「美味しいです…びっくりするくらい」
「本当かい!?良かったァ…」
 口に合わなかったらどうしようって不安だったんだよー、と安堵した笑顔で話すダイゴにマコトは心中で、このオムライスを不味いという人間が果たして存在するのだろうかと心底思った。
 まさかダイゴの料理の腕がここまであるとは…。完全に負けた、とマコトは美味しいオムライスを咀嚼しながら悲壮感に打ちひしがれた。ダイゴはそんな彼女に全く気づかず、始終笑顔を保っていた。