01.マルとサンカク

 洞窟とは外界とは違って気温に差がある。外界とは違い極端に暑かったり寒かったりする。基本的には洞窟とは危険な場所なので大抵の人は厚着をするのだが、あまりにも暑かったら衣服を脱ぎたくなる衝動に駆られる。
 というわけで、現在マコトはホウエン地方にある洞窟で、薄着の状態になっていた。マコトは元々シンオウ地方出身なので暑いところは苦手なのだ。
「駄目だよマコト。洞窟の中で薄着になっちゃ」
「だって暑いんですよー」
「もし怪我とかしちゃったらどうするの」
 同伴者のツワブキダイゴはマコトの姿に眉をハの字にした。どうせ言うことをきいてくれないんだろうな、という思いが滲み出ている。そんな彼の表情にマコトは声音だけで抗議する。
「失礼なー。私だって臨機応変にできますよー。ちゃんと洞窟の中での行動くらい心得てます」
 マコトは一切表情を変えずにそう言う。彼女を知らない人が見たらゾッとするような雰囲気だが、元来彼女はこういうものだと把握しているダイゴは全く物怖じしなかった。
 ダイゴは服装の話をやめ、彼女の手に握られている石に目を付ける。
「良い物見つかったの?」
「良い物かは分かりませんが、結構綺麗な色してるんで拾ってきました」
 ほら、とダイゴの前でかざす。半透明な水色の石はキラリと妖しく光った。
「…それ、めざめいしじゃない?」
「めざめいし?…というと、キルリアとかを進化させる石ですか…」
「あとユキワラシね」
 さすが石マニア。詳しい。マコトはふーんと暫く見つめていたが、興味を失ったのかダイゴに差し出した。
「私が持っていたら壊しそうですしー。持っていてください」
「否定できないね」
「否定しろよ」
 くすりと笑うダイゴを睨みつけるマコト。
 そろそろ戻ろうか。そう言ってダイゴは踵を返す。慌ててマコトは背中を追った。洞窟に慣れているとはいえダイゴほどではない。彼を見失けば、マコトは即刻迷子に陥ってしまう。
 二十分ほど歩いたところで出口が見えた。洞窟を出ると眩しい光がマコトの目を刺す。思わず顔に手をかざして目を瞑った。
「マコトの手持ちにキルリアかユキワラシは居ないの?」
「居ませんねー。私、そんなにポケモン捕まえないんで。ボックスもスッカラカンですー」
 使い道が無い以上、先程のめざめいしは鑑賞行きのようだ。ダイゴもマコトも、キルリアかユキワラシをわざわざ捕まえる意思は無い。
「…さて、ポケモンセンターに行って身体を休めよう。後でカフェでも行こうね」
「そうですねー」
 ツワブキダイゴ・ホウエンチャンピオンで有名会社の御曹司。石マニア。マコト・ポケモントレーナーでありブリーダー。機械に関しては右に出る者はいない。
 そんな対象的な二人を、空を飛ぶムクホークは静かに見守っていた。