20.あなた一人とほか全人類2

 彼の一言に、皆は息を飲んだ。
「…残念だったな、マツブサ」
 ソライシは複雑な表情でそう言う。
「我々は貴様らに屈しな…」
 言葉を紡ぐソライシの隣を、ダイゴは通る。急な彼の行動にソライシの言葉は止まった。
 「ダイゴさ…」風のように頼りないユウキの呼びかけにも彼は応じない。彼はマツブサは近づいて、やがてニメートル程マツブサと離れてたところで脚をとめた。それと同時に、マコトの目尻の皮膚が切れて、血が流れた。
 誰も何も言わない。ただダイゴの次の行動を見守るばかりだ。
 彼はギュッと目を瞑って、思い詰めた表情をする。が、目を開けた時には覚悟を決めたような色を見せた。ダイゴは鞄の中から隕石を取り出す。
「ダイゴさん!」
 ユウキは悲鳴に似た声をあげる。
「…マコトを、返してくれ」
 マツブサは歓喜し、ソライシや助手たちはただただ困惑する。
「な、にをやっているんだ…ダイゴくん!君はたった一人の女の子と大勢の人たちの命を……秤にかけるというのか!」
 ソライシの悲痛な声は、ダイゴにしっかりと届いていた。
「済みませんソライシ博士。僕は最低です。僕は僕だけの為に、大勢の人たちを危険に晒すんです」
 僕は…、ダイゴは張り詰めた声音で宣言する。
「他の人たちが消えてしまうより、マコトが消えてしまうほうがよっぽど嫌なんです」
 この隕石をマグマ団に引き渡したことにより、どんなことが起こるのか…それが分からない程ダイゴは無知ではない。だがそれでも、マコトだけは失いたくなかった。
 ダイゴとソライシの会話を静観していたマツブサだったが「そろそろ良いか」と会話を中断させた。
「先にマコトを解放しろ」
「…フン、そこに隕石を置け」
 ぐ、と詰まったダイゴだったが、鋭い尾がマコトの皮膚に深く入っていることに気づき、マツブサの指示に素直に従った。隕石を置いて数歩退いたダイゴを確認し、下っ端が素早く隕石を奪取した。それからマコトは壁にもたれかけさせられた。
「行くぞ」
 マツブサがそう言うと、下っ端たちを先頭に彼らは暗闇に消えて行った。追う者は、誰一人として居なかった。
「マコト…っ!」
 彼らが消えたのと同時にダイゴはマコトに駆け寄る。幸いにも外傷はハブネークの尾に斬られた目尻だけのようだった。
 「良かった……」蚊の鳴くような声で、ダイゴは心底安堵を述べる。
「ダイゴさん…」
 気を失っているマコトを静かに抱きしめるダイゴの姿を、ユウキは見ていることしかできなかった。