25.こんなわがままでさえ

「やあダイゴ、そんなところにしゃがみ込んでどうしたんだい?」
 不安と焦燥に押し潰されそうになったダイゴに降りかかったその声は、いつも頼りにしている友人のものだった。
 某日、ミナモシティの港付近で力無くしゃがみ込んでいるダイゴを、偶然友人のミクリは発見した。なんとなく心配になり声をかけると、ダイゴはピクリと肩を揺らす。振り返った彼の表情は今までに無いくらい頼りなかった。それに何かあったのだと察し、ミクリはすぐさまミオジムにダイゴを連れて行った。
「…それって…彼女をクビにしたってこと?」
 何故あの場でしゃがみ込んでいたかを訊ねた際に聞いてしまったこと。ミクリは信じられないという目でダイゴを見つめる。
「悪いけど、事実だよ」
「何で…君は彼女をあんなにも…」
「大事だからこそ、手離したんだ」
 ダイゴは目を瞑った。ミクリの責めるような目を見つめ返すことなど、できなかった。
「…そう思うなら、何でミナモの港に居たんだ」
「!」
「“もしかしたら彼女はまだ船に乗っていないかもしれない”…そう思ったから、あそこに調べに来たんだろう」
 「まだ乗っていないなら引き留められるからね」ミクリは更に続けた。彼の推理に図星だったダイゴは、不貞腐れたように俯いた。ミクリはダイゴにとって良い友人だが、昔から彼の無駄に鋭い洞察力だけは厄介していた。
「…腹が立つんだ」
 脈絡の無い告白にミクリは僅かに首を傾ける。ダイゴはそんな彼に構わず続けた。
「僕はあの子が大事だ。傷ついてほしくない。だから手離した。手離せば彼女はもう傷つかずに済む。なのに、手離したことに後悔している僕が居るんだ…僕の都合で彼女を手離したのに、それを要領良く受け取った彼女にどうしようもなく苛立ってるんだ」
 最低だろ。そうダイゴは吐き捨てる。
 ミクリは彼の今の心情がつらい程分かった。彼は彼女に理解してほしかったのだ。自分がどれだけ彼女のことを慕っているか…そして自らの危険を顧みずにダイゴの傍に居てあげると言ってほしかったのだ、ダイゴは。身勝手で自分本位の感情だが、彼女を護りたいという気持ちと同時に傍に置いておきたいという気持ちに板挟み状態になっている。故にダイゴは非情に徹し切れない。
「…で?」
 これからどうするの、そうミクリの瞳は訊ねる。
「…どうするって言ったってもな」
「いつまで俯いてるつもりなんだ」
「っ…でも、」
「本当の気持ちを言いなよ」
 そう言うミクリは、怒っているようだった。
「君らしくないよ、ダイゴ。本当のことを言って謝ってきなよ。君は誠実で隠し事のできる人間じゃない…このまま後悔し続けるよりも何故そんなことを言って彼女を遠ざけたのか、ちゃんと言うべきだ」
「…、はは」
「このヘタレめ」
「言ってくれるね」
 安堵したような、泣きそうな顔でダイゴは微笑した。
 ありがとうミクリ。どう致しまして。短く言葉を交わして、ダイゴはジムを後にする。目指す場所はシンオウ地方―――ナギサシティだ。