28.お節介野郎の心配事

 
「あれ?マコトは?」

 マコトがシンオウに帰ってきて3週間ほどしたある日、オーバが素っ頓狂な声でデンジに訊ねた。デンジはそんな彼に面倒そうな目を向けた。
「休暇取らせた」
「え、休暇?何でまた」
「…ズイタウンにあるロッジの片付けしたいって言い出してよ」
「あー成程」
 オーバはスパナをプラプラと揺らして納得する。スパナで遊ぶなよ、と目で訴えるデンジは無視である。
 マコトの休暇は今日一日のみで、明日からはジムトレーナーとして復帰するそうだ。こき使っている感じが否めないオーバは、少しマコトを不憫に思った。しかも休暇にすることがロッジの片付けだ。それは休暇とは言わない。
「俺行ってこようかな、ズイまで」
「あ?…ッチ、何でだよ」
「いや何で舌打ちした」
 不機嫌オーラ丸出しのデンジから、オーバは数歩後退する。今の彼はスパナをほねブーメランの如く自分の頭に当ててきそうだ。デンジは暫くオーバを睨みつけていたが、飽きたのか再び手許に視線を戻した。動く気は無いらしい。
「お前なあ、ジムトレーナーとしてマコトに働いてもらってるんだから、たまにはマコトの手伝いしてやれよ」
「何でだよ。あいつ、俺ン家住んでるんだから働くのは当然だろーが。働かざるもの食うべからずだ」
「その言葉、そのままお前に返すぜ」
 オーバがそう言うとデンジは罰の悪そうな顔をした。自覚はあるようだ。
「よし、んじゃ俺行って…」
「待て」
「ぐえっ!?」
 踵を返したオーバの首根っこを鷲掴むデンジ。「なっ何だよ!」掠れた声でオーバは訊ねる。
「お前が行くなら俺も行く」
「はあ!?」
「ほらさっさと行くぞ」
「何なんだお前!?」
 わけの分からないデンジにオーバは心の底から疲れた。そんな彼を他所にデンジは工具を片付けた。
「お前だけが行くのはなんかムカつく」
「意味わかんねえ!」
 デンジの隣で寝ていたレントラーは、何だこいつらという感じの白い目で二人を見やった。
 「…あのさあ」片付けている彼の背中を見つめながら、不意にオーバは呼びかける。何だという返答は無かったが彼は続けた。
「何であいつ、クビになったんだよ」
「…」
「マコトはそりゃかなりドライな奴だけど、頭はすげー優秀だろ。なのによォ…」
「はぁ…」
 思い切り溜息をついたデンジにオーバは片眉を上げる。
 彼は工具を全て片付けてオーバと向かい合った。デンジの表情はいつもの気怠げなものではない。少し、苛立ったような表情だ。
「…デポンの副社長から言われたんだと」
「? ダイゴから?」
「野郎…マコトを助ける為に隕石だかなんだか知らねーがそれをナントカ団に手渡して、それが奪われたのがマコトの所為だっつーことでマコトをクビにしたんだと」
「はあ!?何だそりゃ!」
 マコトを助けてくれたのはありがたい話だが、それでクビにさせるほど彼は落ちた人間ではないと思っていた。故にその強行は、オーバをひどく驚かせた。
「…あいつってそんなことするような奴だったっけ?」
「知らねえよ」
 吐き捨てるようにデンジは言うと、レントラーをボールに戻してオーバを隣を通り過ぎた。本当にズイに向かうらしい。
 デンジの背中を一瞥したオーバは、少し俯いてからパッと顔を上げ、緊張した面持ちで彼の後を追った。足音が妙に響いた。