02.可能性への第一歩

「マコト、この石の成分は」
「ん…キーストーンと同じ成分ですねー」
 ノートパソコンの画面にはダイゴの持っている石が表示されている。360度回転して全貌を映しているそれの横に、難しい文字の羅列が走っていた。
 洞窟内にはキーをタッチする軽い音が絶え間無く響いている。マコトはデータを保存して、彼の父が営んでいる会社のパソコンに情報を送信した。パチンっ、とエンターボタンを押し、画面から目を離しダイゴの顔を見る。
「…キーストーンか」
 ダイゴはキーストーンをまじまじと見ている。きっとマコトには想像もつかないことを考えているのだろう。石のことに関してはマコトはダイゴより知識が劣っている。
 そんな彼の横顔を何気なく見ながら、マコトは暇そうに洞窟で拾った小さな石を指先で弄った。大した価値は無いが、色が鮮やかだ。
 「マコト」不意にダイゴが呼ぶ。
「君、ルカリオとジュカイン持ってたよね」
「はい」
「ふむ…それなら、このキーストーンは君が持っていたらどうだ?」
「…はい?」
 突然の提案にマコトは片眉を僅かに上げる。
「今度会社でキーストーンの保有者を誰にするかについての会議があってね…そこで君を立候補してあげる」
「いや別に結構です…私そんなにバトルとかしないし。宝の持ち腐れですよー」
「宝の持ち腐れは君のバトルセンスだよ」
 そんなにセンスあるのに興味無いなんて…勿体無い。ダイゴは続けて言った。
「ルカリオナイトとジュカインナイトを手に入れれば、きっとルカリオとジュカインはメガシンカしてくれるよ」
「そうですかねェ」
「ああ。僕は確信している」
 一体どこからその自信は来るのか。マコトは心底不思議に思ったが、最早口にすることすら面倒だった。
 真剣な面持ちで考え事をしていたくせに、内容は自分にキーストーンを持たせようか否かについてだなんて。心底呆れ、マコトは溜息をついた。割と長いことダイゴの傍に居て、ダイゴは彼女がバトルを好まないことは既知の筈だ。それなのにわざわざバトルを好まないトレーナーにキーストーンを与えるなんて…それこそ“勿体無い”の一言に尽きる。
「…じゃ、選ばれるのを期待しないで待ってます」
「うん。必ず認めさせるよ」
 にっこりと笑い、ダイゴはマコトの肩に手を置いた。一般女性ならここで顔を赤らめるのだが、生憎一般女性ではないマコトは無表情でそれを受け入れた。
 帰り際、ルンルンとスキップでもするかの如く軽々と歩くダイゴに、マコトは少し気持ち悪いと思った。