29.水棲ラプソディ

 わたくしはパーティの中でも割と新参なほうですの。当時、マスターに拾われた時はヒンバスの姿でしたわ。醜い姿からトレーナーに棄てられ、途方に暮れていた時、マスターに出会いましたの。
 マスターは言いました。『君がどんな姿だって構いません。私と一緒に来てくれるなら嬉しいです』と。
 わたくしは驚きましたわ。誰だってわたくしの醜い姿を蔑んで、少しでも早くミロカロスの姿にしたがるのですからマスターの言葉な印象的でしたわ。

 しかしマスターは強いお人でしたの。トレーナーとしてもブリーダーとしても腕の良いマスター。そんな彼女が何故わたくしのようなみすぼらしいポケモンを持っているのか、周りの人から奇異の目を向けられていましたの。わたくしはそれが嫌でたまりませんでしたわ。君の所為じゃない、気にすることないと言ってくださるマスターの言葉を振り切り、わたくしは美しさを磨く為に渋い味のポフィンを一生懸命食べましたわ。
 するとその後、わたくしは呆気なくミロカロスに進化しましたの。
 他の皆様は驚きましたわ。ジュカインなんて『長え!ウナギだ!』とか言って、わたくしの美しさなんてちっとも理解を示しませんでしたわ。まあそれがあの子らしいといえばそうなのだけど。ルカリオやムクホークなんかは無難におめでとうと言っていました。素直にそれを受け取りましたわ。
 それで肝心のマスターなんですけれども…あの子はね、ポケモン図鑑片手にわたくしの記録を始めましたの。あの子、ミロカロスを見たのは初めてらしくて興奮していたわ。まあ喜んでもらって嬉しいのだけれど微妙なの、その喜ばれ方。
 それから今に至るまでマスターをずっと護ってきたのですけどわたくしにとっても他のポケモンたちにとっても、今までずっと、あのダイゴとかいう優男…警戒してきたの。わたくし、あの優男がマスターに惚れていることなんてすぐに分かったわ。腹立たしいことこの上ないわ。あんなヘラヘラした男にマスターを渡すものですか。


 話し終えたスイヒ(ミロカロス)は、息を吐いて紅茶を飲む。その動作一つに優雅さが秘められていた。ゲンはそんな彼女を何気なく見つめ、不意に訊ねる。
「成程、君たちが妙にダイゴのことを嫌っている理由がなんとなく分かった気がする」
「あら、理解していただけなら嬉しいわ」
 そう答えて微笑むスイヒは、貴婦人にしか見えない。良いところのご婦人だ。
 「ところで」ゲンは先程からずっと気になっていることを口にする。
「君が擬人化できるということは、他の子たちも擬人化できるのかい?」
「…そうよ。わたくしとルカリオにムクホーク、ジュカインはできますわ。キュウコンはできないでしょうね」
「何故?」
 興味津々にゲンは訊ねる。
「マスターがホウエンに行く前のこと…ある日ね、しんげつじまに行った時マスターがあるきのみを拾ってきたの。それを食べたポケモンたちだけ、擬人化できるようになったの」
「…そのきのみとは?」
「残念ながらもう無いわ。全部食べちゃったもの。キュウコンはホウエンに行ってから出会ったから、そのきのみを食べてないの」
 悪戯っ子のような笑みを浮かべて、スイヒは答える。残念そうな表情を浮かべるゲンに「そう気落ちなさらないで」と言った。
「今度、君たちが擬人化した時の話でもきこうかな」
「あら、なら今度はコーヒーを用意しておこうかしら。たまには違うお飲物でおもてなししましょう」