31.理性は君を抑えてくれそうにない

 
 “やっかいな人と会っちゃったなぁ”

 奴の第一声は、ソレだった。

 ナギサシティ。俺の地元でもあり職場があるところ。今日もいつも通り暇だから散歩がてら電気屋とかに行こうと思った。マコトと一緒に行こうと思ったけどあいつはマジメだからジムに残った。だから俺は一人寂しく街を歩いていた。
 そんな時だった。
 ふと、立ち話をしている婦人方の会話が耳に入ったんだ。
 話の内容は「すごいイケメンだったわねえ」「あんな人彼氏にしたーい」とか「銀髪がステキ」とかだった。ただのイケメンの話だったのかと思ったが俺は会話の中に出てきた“銀髪”っつー単語にビクリと反応してしまった。
「銀髪…な」
 ――あいつも確か髪色は銀だったような気が…。
 そう考えた瞬間、俺は電気屋なんか放っといて急いで踵を返した。俺の勘は意外とよく当たったりする。
 今の時間帯、確かジムにはマコトしか居ない筈だ。他の連中は買い出しか何かで皆出払っている。そんなんでジムが成り立つんかよとかこの前オーバに言われたが、挑戦者はマコトが全員コテンパンにしてるから全然問題無かったりする。あいつのレントラー、かなり鍛え上げられていたから。あのレントラーに勝つのは中々難しい。というか暫くボックスの中で眠ってたのに何で鈍っていないのか。
 そうこう考えていると、前から真っ赤な塊がこっちに走ってきて「デンジ!」と大声で呼ばれた。
「オーバじゃねえか。何だよ」
 何でこいつ昼間っからナギサ居るんだ。またサボりか。俺の怪訝な心境に気が付いたのかオーバは慌てて「違うからな!?」とか言った。
「それよりもお前、見たか!?」
「見たって…何をだ」
「来てるんだよあいつ…!ナギサに!!」
 嫌な予感がした。今“あいつ”と言われれば、もう俺は銀髪の気に食わねェ“あいつ”しか思い浮かばない。
「今ジムのほうに行ったのを見て…ってデンジ!?ちょっと待てよ!」
 ムカつく野郎だ。一体何でこっちに来た。どのツラ下げて来たんだ馬鹿野郎が。
 もしたとえマコトに関係ない用事で来たとしても、絶対ジムには入れてやらねえ。マコトの家がこの街にあるのに平気で来やがるあたりが腹立つ。
「ッおい!!!」
 ジムの前―――俺には馴染みのない綺麗で高そうなスーツに身を包んでいる男が立っていた。銀髪で、指輪を二つはめている男。    
 そいつは振り向く。聡明さが窺えるアイスブルーの瞳に俺はまた腹の底に黒いモノが落とされた気分になった。 

 ツワブキダイゴ。

 先日、俺の嫌いな人間の部類に加わった奴が、そこに居た。