123番道路。背高草をかきわけ進み、たくさんのトレーナーとバトルができて経験を積める地域だ。マコトはそこを一人で歩いていた。久しぶりのホウエンを楽しんでおいで、とムクゲに言われたのでこうしてマコトはここを散歩しているのである。会社から出る際、ダイゴが僕も行きたいと駄々をこねていたのを思い出し、マコトは一人にやける。
そんな中、マコトの目の前にある建物が現れた。マップを確認すると天気研究所と記されていた。疲れたので休憩目的で施設に入る。すると受付嬢は青白い顔でマコトに縋るような目を向けた。受付嬢は何が起こったのかすぐにマコトに話してくれた。どうやら、研究所内にマグマ団が乗り込んできたらしい。二階へ上がるマコトを止めようとする下っ端たちを蹴散らし、足音を立てないようにマコトは物陰に隠れて奥へと行く。
「なん……じゃっ……これは………ま、まままリーダーマツブサはこうなる事を知りながら…!」
動揺した声。確かホムラという男だったか。
「くそうっ!大切な研究成果を……!返せええええええ!」
「黙らんかい!」
ホムラの叫ぶ声の後に、誰かがぶたれる音がフロアに響く。緊迫した様子が窺える。
「なんたることだろうか!ウヒョヒョ!さすがのホムラさんも慌てふためいてしまいましたよ。…リーダーマツブサ!貴方は世界を…我らがマグマ団を、どうされるおつもりなのだ…!決して許されることではないぞ…!」
施設内の資料を奪っているホムラを見つめ続けたがマコトは姿勢を正して彼の許へ歩き出した。マコトに気づいたホムラは細い目を見開いた。
「ふウヒョ…貴女わたくしのファンなのですか?いつものチャイルドよ」
「頭イかれてるんじゃないですかー?自意識過剰にも程がありますよー」
「しかしプライベートで行動している時まで会うなんてファンだとしか…」
「殺しますよ」
真顔で答えるマコトにホムラは思わずたじろぐ。だが咳払いをしてしっかりとマコトを見直した。
「ウヒョヒョ!まあいいでしょう!いま、わたくしの中に巻き起こるモーレツに不愉快なこの感情をねえっ!貴女をコテンパンにすることでスッキリ!ハッキリ!させちゃいましょうかねぇっ!」
「ふうん」
数分後、悔しさに唇を歪ませるホムラがマコトの眼前にあった。別段苦労はしなかったが、流石幹部なだけあるのか先程の下っ端たちとは格段に実力は違っていた。
「聞くが良いです、ストレスフルチャイルド。リーダーマツブサのプランが達成された時、世界は黄昏を迎えるでしょう。始まりの海を終わりの大地へと変える……それ即ち全ての生命の…チャイルドよ、貴女は来るべきその時を前にどのように動くのでしょうね?キミの行動力、楽しみにしてますよっ!ウヒョッ!ウヒョヒョヒョヒョッ!」
何が愉快なのかさっぱり分からなかったが言うだけ言ってホムラはマコトを一瞥もせずに彼女の横を通り過ぎた。「…リーダーたちはおくりびやまに向かったはず。ならば私は……」ブツブツ呟きながら、彼は施設から出る。(おくりびやま…)一応記憶しておいて損はないだろう、マコトは彼の独り言をきっちり記憶すると奥の部屋に居る人たちにマグマ団が去ったことを伝えた。お礼にとポワルンを譲ろうと言われ、マコトはそれに興味があったのでありがたくいただくことにした。
念の為マグマ団の幹部と交戦したことをダイゴに伝えることした。パソコンでメールを作成し、送信する。きっとすぐには見ないだろうから、マコトはパソコンの電源を切って鞄の底にしまった。
ポワルンを手に入れたマコトは天気研究所を出、先を目指した。橋を渡り終えたところで見知った姿が視界に入る。「あっマコトさん!」彼もこちらに気づいて手を振る。
「お久しぶりですねー、ユウキさん」
「はい!ここで何してるんですか?」
「散歩ですよ散歩」
「さ、散歩…ですか」
はははと空笑いするユウキをマコトは訝しむ。だが気を取り直してユウキはにっこりと笑顔を見せた。
「マコトさん、バトルしましょうよバトル!」
「えー…」
「良いじゃないですかぁ!マコトさん強いし!おれを鍛えてください!」
必死の頼み込みに、マコトは断れず結局バトルをしてしまった。
―――結果的にマコトの勝利だったが。
「流石ですねマコトさん!」
ちょっと悔しそうな顔をしながらも、ユウキは笑顔で答える。
「負けてられないなぁ!おれ、先に行きます!バッジ手に入れて次こそマコトさんに勝ちます!」
「まあ程々に頑張ってください」
「はいそれじゃ!」
若いって良いなあ、と呟き、マコトはユウキの後をのんびりと追った。
この先にあるヒマワキシティには以前、一度だけ訪れたことがあった。他の街とは違い、木の中に家を構える変わったこの街は、とても印象的だった。手持ちのジュカインはこの街をとても気に入っていた。
「…久しぶりに出してあげましょうかねー…っとその前に」
ヒマワキシティに到着してから取り敢えずマコトはポケモンたちを回復させてからパソコンを起動させた。メール欄を確認すると一件受信している。ダイゴからのもので、この先の120番道路に居るから来てくれという内容だった。相変わらず自由奔放だなあと思いながら、マコトはジュカインをボールから出してやった。ジュカインはそれはもう嬉しそうにピョンピョンと跳び回り、はしごを使って先に行く。元気だなぁと淡々と思い、彼の後をついて行ったところ、マコトは不意に見慣れた姿を見つけた。
「…あ、ユウキさん」
ぽつんと呟くと、それが聞こえていたかのようにユウキはパッと顔を上げる。「マコトさん!?」ユウキは驚く。
「どうしたんですか」
ユウキの困った表情に思わず訊ねる。
「実は…あそこのジムの道、何故か通れなくて」
「……別に壁とかはありませんねー」
「無いんですけど見えない壁みたいなのが阻んでるですよ!」
困り切ったユウキを宥め、マコトはこれからダイゴの許へ行くつもりだから一緒に来ないかと誘う。ダイゴならこの不可解な現象を突き止められるかもしれない。それを言うとユウキは瞳をキラキラさせて「行きます!」と元気に言った。
「マコト!っと…ユウキくんじゃないか!久しぶりだね!」
ダイゴは120番道路の橋の上に居た。
「あの…因みに訊きますけどちゃんとムクゲさんに許可頂いてここに居るんでしょうねー?」
「え?あ、まあね、うん」
はははと笑うダイゴに、マコトは内心舌打ちする。(この野郎また無断で来やがったな)マコトはこっそり悪態をついてため息をつく。しかしここで注意しても最早無駄なのでこれ以上は何も言わない。
「…で、何してるんですかー」
「ああうん。マコト、ここに何か居ることに気づいてる?」
ダイゴが指差す場所には何も居ない。しかし、これ以上行けないような圧迫感がある。マコトは隣に居るユウキを見やった。ユウキも戸惑うようにマコトを見返す。
「ユウキくん、これを付けてみて」
そう言ってダイゴが渡したのはデボンスコープだった。「わあ!?」スコープ越しに見た光景にユウキは驚いて、思わずモンスターボールに手を出す。それに気づいた“見えない相手”も姿を現した。見えない相手とはカクレオンのことで、こうしてたまに体の色を変えて景色に溶け込むのだ。おそらくジムの通り道にもカクレオンが潜んでいるのだろう。
そうこうマコトが考えている内にユウキはカクレオンとのバトルを終えて、無事勝ったようでホッと息をついていた。
「ダイゴさーん、それ、ユウキさんに差し上げたらどうです?」
「え!?そんなの悪いですよ!」
「実はヒマワキジムの通り道も、見えない何かに阻まれて先を行けないそうなんですよー。これがあればユウキさん、ジムに挑戦できるじゃないですかー」
「そうだったのか…よし良いよ。ユウキくん、是非貰ってくれ」
二人に推され、ユウキは戸惑いながらもお礼を言ってデボンスコープを貰った。「それじゃ、バッジ貰いに行ってきます!」それからユウキは嬉しそうに引き返していった。
「で」
「うッ」
「会社で待っているって言ってませんでした?」
ジロリと睨むと、ダイゴはバツの悪そうな顔をする。それを暫く見つめていたマコトだったが、やがて諦めて視線を前に戻した。
「……ま、今回は良しとしましょうかねー。ユウキさんもダイゴさんと偶然会えたおかげでジムに挑戦できますし」
「…ねえ、マコトってもしかして年下好き?明らかに僕と彼との扱いに差があるんだけど!?」
「は?何言ってるんですか気持ち悪い。さっさと帰りますよ」
「ほらぁ!今だって僕に冷たい!!」
ぎゃんぎゃん喚くダイゴを放って踵を返す。その瞬間、ハッとマコトは息を呑んだ。
「……ジュカイン、忘れてた」