40.青の独白

 幼少のマスターはどこにでもいる普通の子供だった。そんなマスターを私は享受していたし、それで満足していた。幼さ故の危なっかしさや冷静さ、笑顔、憤怒、悲壮、それらすべてを受け入れていた。でもマスターは変わった。あの一件から。白い彼を失ってから変わった。
 私はそれでも良いと思った。マスターはマスターだから。何があろうと共に在るだけだと。きっとマスターは寂しいだけで根本は何も変わっていないと信じていた。だが、そうではなかった。きっと怖くなったのだろう、マスターは私たちを心のどこかで信じれなくなっていた。表に出さなくとも私には分かっていた。私たちを失うのが恐いが故に私たちを信じれなくなったのだ。そして誰でもない自分の頭脳の中で全てを完結したがった。
 可哀想なマスター。あんな一件の所為で大切なものを欠陥してしまうなんて。だがそれもマスターを形成する一部なのだと、私は受け入れた。貴女がどんなことになっても傍に居てあげる。隣に居てあげる。
 それに喪失を恐れたマスターは必要以上に危険を冒さなくなった。それは私たちパーティにとってはとても嬉しい変化だった。なんせマスターが傷つく可能性が減るのだ。これ以上喜ぶことはない。
 だが、マスターはまた変わりつつあった。
「…お疲れ様でしたー、ルカリオ。まああなたにとって相手は大したことなかったですしねー」
 今日はマグマ団のアジトに殴り込み。この前はおくりびやま。そしてシンオウに一時帰還するきっかけを作った、流星の滝の事件。
 マスターはまた自分から危険に触れようとしていた。何故か……そんなの分かり切っている。あの男の影響だ。
 あのままで良かったのに。信じてもらえないのはつらいけれど、マスターが傷つくのはもっとつらい。だからこのままで良かったというのに、あろうことかマスターはあの男に影響を受けたのか、またしても危険に近づいた。その身を挺して皆を護ろうとした。
「…ルカリオ?」
「グゥゥ……」
 正しいのか誤りなのか、そんなこと私には分かりはしない。ただ一つ言えることは、マスターがまた酷い傷を負ってしまうかもしれないということだった。
 マスターに抱きつくと、マスターは戸惑いながらも私の頭を撫でた。
「どうしたんですかー」
「…」
「…ルカリオ……疲れたんですか?」
 疲れているのは貴女のほうだ。貴女はもっと自分を労わったほうが良い。嗚呼、私がこんなにも貴女を心配しているのに、憂いているのに、悲しんでいるのに、偲んでいるのに、愛しているのに、マスターは気づかない。マスターはどこまでも私たちを見ているのに何も見えていない。だがその鈍感さが却って愛おしい。
「クウ、ぅー」
「……?もう良いですか?」
「がう」
 気づかなくとも、見失っていおうとも、私が貴女を護る。他の誰でもない私が。誰にも譲りはしないし、誰にも奪わせない。
 それがたとえ、人間だとしても。