41.近くにはいるから

「あーっ!!」
「!?」
「あの時の!」
 マグマ団アジトの襲撃に成功したマコトは、ダイゴの言いつけ通りトクサネシティに向かおうとしていた。しかしその折、背後から可愛らしい女の子の声が聞こえてきたのである。何だろうと振り返ってみると茶髪の女の子がひどく驚いた顔をしてこちらを凝視していた。
「あ、あ、あ…」
「…?」
「ここここんにちは!あのッあたしのこと覚えてますか!?」
「え、」
 彼女の物言いから自分たちは面識があるらしいのだが、いかんせん他人に興味が無いマコトは彼女が誰かまったく分からなかったのであった。「分かりませんか…そうですよね、一回だけですもんね」マコトの薄い反応を察して、女の子はうなだれる。何故だろう、すごく悪いことをしている気がする。
「ポケモンコンテストで話しかけたんですけど…」
「…………あー」
 そういえばいつかのコンテストに参加した折、終了した際に誰かが話しかけてきたような……という風にマコトは必死に記憶の糸を辿る。
「あたし、ハルカっていいます。あなたは…マコトさん、でしたよね?」
「そうですよー。よく覚えてますねー」
「キュウコンの毛並みがすごく良かったし、技もとても印象的でしたから」
 見た目からして自分よりも幾分か年下の彼女・ハルカはハキハキと話す。星屑を閉じ込めたような瞳は真っ直ぐ自分を射抜いている。普段こんなにも煌めいた瞳で見つめられることがないマコトは、とてつもなく居心地が悪い。正直早く立ち去りたいというのが本音だ。
 その時、救いの声といわんばかりに「あれ?マコトさんに…ハルカ!?」と男の子の声が響いた。
「ユウキ!」
「何でお前マコトさんと…?」
「ていうかユウキだってマコトさんと知り合いなの!?」
 彼らの発言からして友達の知り合いは自分の知り合い、といった感じになっているようだ。
「こんにちはマコトさん!バトルしてください!」
「…またそれですかー」
 前回もバトルしたではないかと断るとユウキは不満そうな顔を露わにした。「良いじゃないですかー!マコトさん、トレーナーでしょ?」駄々を捏ねるユウキの頭をわがまま言うなと言わんばかりにハルカが叩く。中々良いコンビらしい。しかし尚も彼は食い下がるので、マコトは仕方ないので話題を変更することにした。「そういえばユウキさん、トクサネジムを受けるつもりなんですか?」案の定、彼はこの話題に反応を見せる。
「はい!」
「トクサネジムは他のジムとは違ってダブルバトル形式なんですよねー」
「そうなんですか!?」
「ジムリーダーも二人で、フウさんとランさんという人です。この二人、結構良いチームプレイをするんですよねー。ま、頑張ってください、それじゃ…」
「じゃあマコトさん、俺とダブルバトルしてください!」
「え」
 何故そこに戻るのだとマコトは口角が引き攣る。更に彼は一人でダブルバトルをしたことがないから是非手解きをしてくれとまくし立てる。しょうがない――マコトは腹を括った。
「言っておきますけど私もダブルバトルは久しぶりですんでー」
「分かりました!いけ、ラグラージ!オオスバメ!」
「ジュカイン、ムクホーク、お願いします。――ジュカイン、リーフストーム!」
 こうしてダブルバトルが始まった。


「〜〜〜〜また負けたぁぁぁ!!」
 端的に言えば、またもやマコトが勝った。
「まあダブルのやり方は分かったでしょう?」
「…はい。頑張ります」
 ショボンとするユウキを苦笑しながら一瞥すると、ハルカが今からどこへ行くつもりなのか訊ねてきた。このままトクサネシティに向かうつもりだと述べればユウキが一緒に行かないかと誘ってきた。別に困るようなことはない。マコトは二つ返事をした。
 トクサネに向かう道中、ユウキやハルカはマコトに質問攻めをした。ユウキは主にバトルについて、ハルカはコンテスト技そして恋愛についてだった。このくらいの年頃の女の子は恋愛について非常に興味があるのか、瞳が通常以上輝いていた。しかもユウキが余計なことにダイゴについて話してしまった為、ハルカは更に興奮して詰め寄ってきた。
「社内恋愛とかにならないんですかー!?」
「なりませんね、絶対に」
 間髪容れずに答えるマコトにハルカはひどく残念そうな顔をした。
 やがてトクサネシティに辿り着く。ユウキとハルカはポケモンセンターに向かうとのことで途中で別れた。
「…ま、程々に頑張ってください。気張らなくていいですから」
「はい!」
「マコトさん、またコンテストに出てください!あたしマコトさんやポケモンたちの演技見たいです!」
「考えておきましょう」
 そうして二人と別れ、マコトは行き慣れた道を歩む。最後に歩いた雨の道とは違い、今日は美しい色に染まっていた。彼の家の屋根もあたたかい色になっている。そこへ行く道のりが何故か遠く感じた。