「……ダイゴさん?」
見慣れたドアに視線を向けながらマコトはインターホンを押したのだが、どういうわけかうんともすんとも言わない。まさか呼び出しておいて留守なのか?とマコトは勘ぐりながら合鍵を使用して家に入る。
人の気配が無い。本当に留守なのかと半ば信じられない気持ちでリビングに踏み入れる。そこにはいつもの家具類があるだけで、ポケモンは無論、人も居なかった。マコトは自分の額に青筋が立つのを感じた。
「ニートの分際で」
吐き捨てるように述べて、パソコンを起動させる。“呼び出しておいてどういう仕打ちですか、これ”とメールを打って送信した。それからマコトはテレビを点けてからコーヒーを淹れてソファに座る。他人宅だが遠慮など無しだ。こんな仕打ちを食らったので罰は当たらないだろう。
*
翌朝、ダイゴのベッドを無断で使ったマコトは晴れやかな気持ちで朝食を摂った。手持ちポケモンたちは彼の家に一泊したということに不満気だったがマコトは気にしなかった。いつものことである。
その後荷物を持ってトクサネジムに向かう。ユウキは明日、つまり今日ジムに挑戦すると昨日言っていた。今行けば彼らのバトルが見られるかもしれない。他人のバトルを観戦するのは結構楽しいのである。
トクサネジムに入ると既にバトルは始まっているのが窺えた。許可を取り近くまで行ってみるが、両者共集中していてマコトには気づかなかった。フウとランの華麗なコンビネーションに惑わされながらもユウキは懸命にポケモンたちに指示を煽っていた。その努力の甲斐あってか、ユウキは無事バトルに勝利することができた。
「おめでとーございますー」
拍手をしながら祝すと、ユウキがびっくりした顔でこちらに駆けてきた。
「マコトさん!観に来てくれてたんですね!」
「あのアホがちょっと行方知れずでしてねー。時間が空いたので」
「(アホってダイゴさんのことかな…)どのくらい前から来てたんですか?」
「ちょっと前ですよ。イヤー、最初から観たかったですねー」
「「マコトさん!!」」
と、ここでフウとランが駆けてくる。
「どうだった?」
「私たちのバトル!」
「とても良かったと思いますよー?相変わらずコンビネーションは抜群ですね」
「マコトさんに!」
「褒められた!」
わーい、とハイタッチする二人は本当に仲が良い。今時の双子では珍しいことだ。
「あ、そういえば」
「マコトさん、ダイゴさんと会った?」
不意に思い出したかのようにフウとランはハイタッチを止めて訊ねてくる。それに否と返すと彼らはアララと眉をハの字にして苦笑した。
「ダイゴさん、一昨日すごい勢いでトクサネシティを離れたんだけどさ」
「マコトさん知ってる?」
「いえ…?」
「「すっごく大事な用ができたみたいだったけど?」」
ダイゴが自分にそれを連絡してこないとなると、リーグ関係のことだろうか。マコトはデボンの人間として雇われているのでリーグのことで口出しする権利も情報提供を促す権利も無いから、当初からリーグ関係のことはダイゴもマコトにはあまり話さなかったのである。マコトもそれに対して不満は何一つ無かった(正直これ以上面倒事を増やしてほしくないからというのが本音である)。
「慌てて言ってたよ?」
「マコトさんが来たら家で待っててって」
となると入れ違いになりたくないしすぐに直帰したほうが良さそうだ。教えてくれたフウとランに礼を言い、ユウキと共にジムを出る。そして改めてユウキに賞賛を送り、ダイゴの家へ向かった――その時であった。
ゴゴゴゴゴゴ!!!
激しい地鳴りと共に、遠くで光の柱が空に走る。突然のことにマコトはバランスを崩して尻餅をついた。「な、何だっ!?」「海から光の柱が!」「あっち……128番水道のほう……!?」「やっべ!すっげ!マジすっげ!」「は、はがががっが…この世の、終わり…じゃ……」「エネコちゃん!大丈夫よ!?落ち着いて!」皆、予想外の出来事に混乱を免れない。ざわざわと動揺が波紋してゆく中、マコトは人々の中に探していた銀髪を見つけた。
「ダイゴさん…!」
咄嗟に名前を紡ぐと、その僅かな音を拾ったのかダイゴがまっすぐこちらに向かって来た。「マコト!」と彼は慌てて駆け寄って手を差し出し抱き起こしてくれた。
「怪我は?!」
「、大丈夫です」
「本当に?マコトはすぐに無理するから心配だよ。色々訊きたいことが僕には…いや、君もあるだろうけど、取り敢えず僕の家に行こう。マコト、顔色悪いし」
ダイゴの提案に頷く。先の揺れで少し気分が悪くなり、無理をしていたのも事実だ。
久しぶりに会ったというのにこんな混迷に惑うなどなんて運が悪いのだろうか。が、愚痴を言っても仕方ない。マコトは深呼吸をしてダイゴの後に続いた。まだ、街はざわついていた。