久しぶりにダイゴと二人で家に入る。外から聞こえる動揺の声を振り払いながら、マコトはダイゴに促されるままにイスに座った。それからダイゴが淹れたコーヒーを飲んで落ち着く。もう冷静さを取り戻していた。それを確認したダイゴは口を開く。
「…さて、世界に何が起こったのか少し状況を整理しようか」
「その前に………ダイゴさんが家を離れていたのはこうなることを予測していたからですか?」
マコトの言葉にダイゴはニヤリと笑う。
「流石。察しが良いね。そう、マグマ団やアクア団の存在を確認してから、リーグ機関はこうなることをずっと前から危惧していたんだよ」
「……そしてその危惧は現実となってしまった…」
「―――…あの地鳴り、そして劈くような爆発音は深海に秘められた封印が解かれてしまった証なんだ」
ダイゴの話はこうだ。
128番水道の奥深くには、太古の昔に封印されし超古代ポケモンの眠る海底洞窟がある。その入り口はあるポケモンの力で封印されていたのだが、どうやら悪巧みをする奴らの手によって解かれてしまったらしい。そしてその犯人は言わずもがな、マコトと因縁のあるマグマ団だ。
「奴らの狙いは間違いなく超古代ポケモンを復活させ自分たちのものにすることだろう」
「…そんなこと、できるとは思えませんがねー」
「僕も同意見だ」
するとダイゴは不意に立ち上がってマコトの隣まで行くと、そのアイスブルーの瞳を揺らしてマコトを見据えた。
「…マコト、奴らが超古代ポケモンの力を手に入れたら世界のバランスは崩れ、この星に住む全ての生き物に未だかつてない危機が訪れる。僕は僕の責任においてこの状況を治めるために全力を尽くすつもりだ」
「ダイゴさんならそう言うと思っていましたよー。ま、私も行きますからなんとか、」
「君はここに残れ」
ピタリ。空気が固まる。まさか拒否されるとは思ってもみなかったので、マコトは珍しく目を剥いた。しかしそれも一瞬で、マコトはガタリと音を立ててイスから立ち上がり、すぐさまダイゴを睨みつけた。
「ダイゴさんだけじゃ解決できるとは到底思えませんが」
上司に言うような言葉ではないのだがマコトは平気で述べる。ダイゴもそれに対し上司特有の嫌悪感など無いようで、表情を変えることはなかった。ただ、決心したような顔つきだった。
「……私はリーグの関係者でもない、デボンで雇われているしがないトレーナー。ただのダイゴさんのお目付役。でも、だからこそ行きます」
「マコト…!」
「それにマグマ団には色々お礼をしなければいけませんしねー。もうあんなヘマしません」
「それでも僕は………」
唇を噛むダイゴに、マコトはフッと笑ってみせる。
「これは誰にも強制されてない。私が行きたいから行くんです」
「……」
「世界を護るだなんて大層なことは言えない。人類全てを助けたいと思えるほど私は博愛主義者でもない。でも、今までお世話になった人やポケモンを護りたいという気持ちくらいは持ち合わせています。だからダイゴさん、私を―――」
その先の言葉は続かなかった。珍しくマコトは頭が働かなかった。目の前は黒くて、そしてあたたかいものに包まれている。“ダイゴに抱きしめられている”という事実に辿り着くのに、暫く時間を要した。「僕は…」彼の心臓の鼓動を間近に感じながら、マコトはダイゴの決心した顔つきとは程遠いような情けない声を聞く。
「…僕は…もう、あんな目に遭う君を見たくない…っ」
心の底から絞り出したような声に、マコトはつい息を呑む。こんなにも真面目で弱々しい彼を見るのは初めてだった。そしてマコトは漸く知る。
――自分は、こんなにも彼に大切にされているということを。
「……なら、尚更行きます」
「!?」
「だって、信じてますから。皆を」
ルカリオもムクホークもジュカインもミロカロスもキュウコンもポワルンも、そして、ダイゴも。
「…力を貸しますよ、ダイゴさん」
信頼してくれているなら、余計に引けなかった。
マコトの頑なな決意にダイゴは思わず感嘆の溜息を洩らす。「何を言っても無駄みたいだね」とても残念そうに、だがどこか安堵したような声音でダイゴは呟いてから、彼は懐からわざマシンを取り出した。中身はダイビング。海底洞窟に行くのに必要不可欠なものだ。更に彼はデボンで開発された海中でも長時間呼吸できるデボンボンベをマコトに寄越した。
「128番水道のどこかでダイビングを使えば海底洞窟の入り口に辿り着くことができる筈だ」
「分かりました」
「……気をつけてね。僕も役目を果たし次第、そっちに行くから。お願いだから無理だけは…」
「ダイゴさん、私が二度も似たようなヘマをすると思ってるんですかー?」
「っふ、確かにね」マコトの小馬鹿にするような言葉にダイゴはつい笑ってしまった。
そして暫く互いに見つめあったあと、二人は別れた。ダイゴは最後まで心配そうな顔をしていたが、リーグに発つ際は振り払うように勢い良くエアームドを飛ばした。それを見送ったマコトはミロカロスを出して、彼女にダイビングを覚えてもらった。
「…じゃ、行きますかねー」
念のためタオルや替えの服を用意して128番水道に出る。その水道は所々濃い青の帯が漂っている。マコトは指示をしてミロカロスを誘導するとミロカロスは一つ甲高く鳴く。「お願いします」そう言うと、ミロカロスはダイビングをして水中に沈んでいった。