中は予想以上に暗かった。周囲にある松明だけでは心許ないのでペンライトで地面を照らしながら歩く。時折地面が震え、その度にパラパラと砂粒が頭上から降ってくる。振動の間隔は奥へ進むにつれ短くなっていた。気を紛らわせる為、ポケナビをつけてニュースを聴く。マグマ団やアクア団が住民を助けているとか、ユウキの活躍、ダイゴが今やっていることが流れてきた。皆、己のすべきことを遂行している。自分も弱音を吐いてなどいられない。
ペンライトを持ち直し、一層暗い地下へと踏み込もうとしたその時、今までで一番大きい揺れが起こった。そして何者かの咆哮。そろそろかと察し、ポケナビをしまって階段を下りるとマグマの海が広がる場所へと来た。赤い海の先には奥へ続く穴がある。この辺りでスーツを着たほうが良いだろう。ホムラの指示通りの場所に藍色のたまを設置すると、スーツ内だけひんやりとした気持ちいい空気になった。
瞬間、待ち構えていたかのようにマグマの海からグラードンが出現する。
《……聞いているか!君よ!私だ、マツブサだ》
「マツブサさん…!」
《スーツに仕込んでおいた装置を通して話しかけている。…済まんが一方通行の通信機なのでな、君の声は聞こえない》
なんだ、色々訊きたいことがあるというのに、と残念に思ったが気を取り直しマツブサの声に耳を傾ける。
《外でグラードンの出現反応を確認した。おそらく君のすぐ目の前に現れたのではないか?》
よくご存知で、とつい口角が上がる。眼前のグラードンは完全覚醒していて、その鋭い目は自分を射抜いていた。
《……いいか、コンマ一秒も臆することなく、グラードンの背中に飛び乗るのだ!》
「……………………………は?」
《そしてや……と、と………にさいし…ぶ………へ……》
そこで通信は途切れる。こんな時にと舌打ちをしたい気分になったが、それよりも先程彼が言ったことに気を取られた。
グラードンの、背に乗れ?何を言っているのだ彼は。
思わず笑いそうになるが決してふざけて言ったわけではないことは知っている。次いでマツブサが言ったことは途切れ途切れで聞き取りづらかったが、多分“奴と共に、最深部へ”だ。
「…やるしかないですねー」
マコトは軽く屈伸して身構える。グラードンはゆったりとした動きでマグマ内を移動し始めた。ぐっ、と足に力を込め、助走をつけてジャンプする。なんとか飛び乗ることができ、マコトは固いグラードンの背を掴んで奥へと進んだ。
最深部はギラついた赤が目立つ、妖しい場所だった。スーツの着用は不要と判断し、マコトは素早く脱ぐ。涼しくはないが先程よりマシだった。息をついて周囲を見渡すと鉱石や変わった石が点在していた。ダイゴの喜びそうな場所だと感想を抱いて、ポケナビを確認する。案の定鉱石の影響でそれは機能を果たせていなかった。ポケナビもペンライトもしまいこみ、マコトは歩きだす。目指すは少し前にあるマグマの海。身を寄せるグラードンだ。どくんどくん、と心臓が体内で忙しなく鼓動する。緊張しているのだと、マコトは冷静に己を見れた。
グラードンはマコトの姿を確認すると大きく咆哮した。呼応するように周りの赤い石が輝きを放ち始める。そしてグラードンも光りだし、見たことのない姿へと変貌した。そう、これがゲンシカイキ。
「っ…(グラードンはじめんタイプ、か)」
ならばみずタイプで攻めるのが定石。
「ミロカロス!いきますよ、ねっとう!」
しかし、噴き出した水はグラードンに当たる前に蒸発して消えてしまった。想定外の出来事にマコトは動揺を隠せない。
「これは…特性?」
戦闘開始直後から洞窟内にもかかわらず、灼けるような日差しが注がれている。もしかしたらそれが原因でみず技が効かないのかもしれない。生憎グラードンと合間見えるのは初めてで、みずタイプ以外の対策は知らなかった。
「っミロカロス、もど…」
「キュウッ!!?」
突然のグラードンの攻撃にミロカロスは避けきれず直撃してしまい、後方に吹っ飛んだ。今のは動揺して指示を怠ったトレーナーのミスだ。慌ててボールに戻して逡巡する。天気を操るポケモンはこちらではポワルンが居るが、彼ではグラードンに太刀打ちできるほどの力を持ち合わせていない。かといって経験値の高いムクホークでも心配だ。キュウコンやルカリオ、ジュカインは相性が悪い。
(どうしよう………)ぶわり、波打つように不安に呑まれる。まさに背水の陣。もう手は無いのだろうか。
――――――その時。
“かたん”
あるモンスターボールが、揺れた。自分を出してくれと言わんばかりに。相性は決して良くないのに、それでも出してほしいと言っているようだった。
「……ぁ…」
不安が伝わっているのだろう。マコトを安心させるようにボールは忙しなく揺れる。己の存在に気づかせようとしている。マコトは祈るような思いでボールを手に取った。
「っおねがい…」
赤い光に包まれて出てきた青騎士に、マコトは胸の前でギュッと手を握った。