04.始まりの君へ

 『ムロタウンに来てくれ』画面越しの再会の第一声が、それだった。
「あんのニートめ…人使いが荒いなァ」
 ムクホークの背に乗ってムロタウンを目指すマコト。彼女の真下は海面で、心地良い潮風が時折頬を撫ぜる。
数分のしない内にムロタウンが見えてきた。ムクホークはゆっくり降下する。
「ありがとうございますムクホーク。ポケモンセンターで休みますか?」
 マコトの問いにムクホークは首を横に振った。僅かに微笑み、マコトはモンスターボールをムクホークに向ける。ムクホークは赤い光に吸収されていった。
 「さて」と辺りを見渡す。ムロタウンに来てくれと言われていたものの、どこで待ち合わせするのかということは知らされていなかった。自力でダイゴを探すしかない。
「すみません」
 近くに居たニット帽を被った男の子に話しかける。
「この辺りで銀髪でスーツ姿の男性を見かけませんでしたか?」
「銀髪の…?すみません、俺もついさっきムロに来たばっかなんでちょっと…」
「そうですか、ありがとうございました」
 男の子は申し訳なさそうな顔をして詫びた。それから二言三言話してから、男の子はムロタウンジムへ向かった。どうやらトレーナーのようだ。その姿をなんとなく見送ってから、マコトは石の洞窟に足を運んだ。この場所で彼が向かう場所といえば、洞窟しか見当がつかない。
 洞窟に入り奥の部屋へ向かう。途中山男がやめたほうが良いとか何とか言っていたが、マコトはきかなかった。奥の部屋へ入ると、案の定目立つ銀髪がそこに居た。
「こんなトコに居たんですか」
「ああマコト、来てくれたか」
「待ち合わせの場所くらい言ってくださいよー」
「済まない。ちょっと急いでたから」
 言ってダイゴは壁画に目をやる。マコトもつられてそちらを見た。壁画には巨大なポケモンが描かれていた。オメガの文様らしきものが身体には綴られている。
「これグラードンですか?」
「ああ」
 ダイゴは興味深そうに壁画を見つめ続ける。
「…ふむ、原始の世界においてはここまで強大な力を纏っていたということか…超古代ポケモン…凄まじいパワーだ」
「この姿ってメガシンカとは違うんですよね?」
「そうだよ。…うん、調査が必要だね。マコト、ついて来てくれるね?」
「その為に私は居るんで」
 マコトの返事にダイゴは満足そうに頷いた。
 「…あの」とここで、不意に男の子の声が響いた。ダイゴとマコトは振り向く。
「あ」
「…あ!あなたはさっきの!」
「? マコト、知り合いかい?」
「んーまァちょっとした」
 ダイゴとマコトに呼びかけたのは、先程マコトが彼のことについて尋ねたニット帽の男の子だった。男の子は戸惑い気味に階段を上がってマコトたちの前に立つ。
「…銀髪だ」
「でしょ」
 マコトと男の子の会話に意味が分からず、ダイゴはまじまじと自分の髪色を見る視線に首を傾げた。「それで、君は?」話が続かないのでダイゴが訊ねる。
「あ、俺ユウキっていいます」
「そう。僕はダイゴ。珍しい石を探してあちこち旅をしているんだよ」
「私はマコトです。ダイゴさんの助手じみたことをやってます。先程はありがとうございましたー」
「あ、いえ俺のほうこそお役に立てずにすみませんでした…」
 そう言って、ユウキはポケットの中から白い封筒を取り出した。
「ダイゴさん宛の手紙です。どうぞ」
「えっ、僕に手紙?」
 マコトは興味深そうに封筒に書かれている差出人のところを覗き込む。差出人は彼の父だった。目線だけダイゴに向けると、彼はちょっとだけ“あちゃー”という表情になった。無断でここに来たんだということが察せられる。
「うんありがとう!わざわざ届けてくれたんだ、何かお礼をさせてもらうよ……そうだね、それではこのわざマシンを君に…」
 ダイゴは手紙を懐に入れ、それからわざマシンを取り出した。わざマシンははがねのつばさだった。はがねタイプが好きなダイゴらしいチョイスだと思う。
「…ところで君はこの壁画を見て何か感じることはあるかな?数千年の昔、原始の頃、その力を持って僕たち人間の大いなる脅威となっていた伝説のポケモン…その力の凄まじさが壁画を見ているだけで伝わってくるよ」
「…ダイゴさーん、ユウキさん戸惑ってますよー」
「ん?ああ済まない!こういうことに僕はすごく興味があってね」
 ハハハとダイゴは笑うが、ユウキは少し戸惑った笑みを浮かべている。
「……うん、君のポケモンも彼らに負けじと中々良い感じだね。君と君のポケモンたち……修行を続ければいつか、目指すものにきっとなれると僕は思うな」
 ダイゴの言葉はどこか説得力があった。さすがチャンピオン。風格がどことなく一般のトレーナーと違うので言葉にも強みがある。
「ありがとうございます!それじゃ俺、失礼します」
「さよォーならァー」
 ユウキは弾むように洞窟を後にする。ダイゴに言われた言葉がよっぽど嬉しかったのだろう。
 それからダイゴとマコトは壁画を少し調べてからムロタウンを去った。ダイゴはエアームド、マコトはムクホークに乗ってトクサネシティに向かった。道中、マコトはノートパソコンに指を走らせる。
「マコト、落ちないでよ」
「落ちませんよー、このパソコンには大事な情報が入ってるので間違っても落としません」
「パソコンじゃなくて君のことを言ってるの」
 マコトはふと画面から顔をあげてダイゴを見つめる。
「ウチのムクホークは優秀なので、もし落ちたとしても受け止めてくれますよー」
「…その言い方、もしかして一度落ちたことがあるのかい?」
「……はははー」