51.枯渇に憂う

 ダイゴは非常に、気怠げに、ぼんやりと虚空を見つめていた。時折深い溜息をついては、物憂げに視線を彷徨わせる。それは見る者が見れば様になっていると思わせることができるが、生憎この場において彼の容姿に見惚れる者など誰一人としていなかった。それどころか今の彼の現状を煙たがる者が殆どであった。
「おいあのダイゴウザいぞ。誰かなんとかしろよ」
 辟易して辛辣に述べるのはホウエンリーグ四天王の一人、カゲツであった。最近は腕のならない挑戦者ばかり相手にしていて、カゲツのフラストレーションは溜まる一方で、そんな中、あんなに暗い空気を醸し出すダイゴを見ればそりゃカゲツの機嫌は輪をかけて下るだろう。ホウエン四天王年長者であるゲンジは若者特有の苛立ちに、内心ダイゴ同様溜息をつきたくなった。無論、その溜息の原因の一つはダイゴでもあるが。
「奴は何故最近、あんな調子なんだ?」
 思い当たる節が見つからず、誰かにというわけでもなく訊ねる。するとフヨウとプリムが顔を合わせて微笑んだ。
「……何を笑っている」
「だって……ねえ…?」
「オジサンには分かんないの?!」
 フヨウの怒ったような口調にゲンジは眉をひそめる。今の彼を見て察しろというほうが難しいだろう。それなのにフヨウやプリムは分かって当然といったような顔をしている。首を捻って考えてみるが、まったくもって分からない。
「………そういやあいつ、最近ずっとリーグにいるよな」
 ゲンジの思考を遮ったのは、思いついたように呟いたカゲツの言葉である。そして二三拍空けてカゲツは「分かった!」と弾かんばかりの声音で閃いた。
「何だ?一体何が分かったんだ??」
「ダイゴがあんな辛気くせー顔してる理由だよ!」
 カゲツは先程の苛立った感じとは一変、至極楽しそうにダイゴを見据えた。
「ははあ…あいつにもそういう一面があるとはなぁ」
「しょうがないわ、だって男の子ですもの」
「プリム、ダイゴはもう“男の子”じゃないよ」
 若者三人の会話についていけず、ゲンジはそろそろ焦れったい思いを抱く。一体何だというのだと視線で伝え、早く言えと急かす。するとフヨウがしょうがないなあと言わんばかりに、大袈裟に肩を竦めて口を開いた。
「“あの子”が居ないから元気ないのよ」
 あの子、とは誰のことなのか。ゲンジの疑問を察したのかフヨウは呆れた顔をした。
「分かんないの?!ゲンジも一回だけ会ったことあるじゃない!」
「……?」
「ほら、デボンの社長から引っ張ってこられたダイゴの“お目付役”!」
 そこまで言われて漸く思い出した。話したことなど無く、遠目でしか見たことがなかったが淡白そうだという感想を抱いていた。
 そうか、あの子が居ないのか。理解し、ふとまた疑問が浮上する。
「…何故だ?クビになったのか?」
 朧げな記憶が正しければ、ダイゴは大層彼女を買っていた気がする。なのにクビにしたともあれば余程のことがあったのだろう。
 しかしゲンジのそんな思考をフヨウが否定する。
「うーん、なんかケジメ付けたいとかどうこうで地元に帰ってるらしいわ」
「ケジメ?」
「ふるさとに心残りでもあったんじゃないのかしら……彼女、真面目そうな方だったからそれを清算したいのね」
 ゲンジの素っ頓狂な声にプリムが答える。彼女のことについては何も知らないのでゲンジは何とも言えない。が、少なくとも彼女の不在がダイゴをこんなにも萎ませているということだけは分かった。
「あいついつ帰ってくんだ?」
「さあ。でも期間決めてあるみたいよ」
「彼女がふるさとへ帰ってしまって早十五日……早く帰ってくると良いわねえ」
 プリムのちょっと不憫そうな声音に、ゲンジは声に出さずに同意した。チャンピオンがあんな調子だと、四天王のアドバンテージも下がってしまう。こちらの為にも、一刻も早い帰還を望んだ。