52.若葉の挑戦状

 シンオウリーグの朝は早い。ここの事務局は他のリーグ機関よりも真面目な事務員が多いので、朝タイムカードを切る時間を必ず見られるから遅刻は厳禁なのである。だからオーバは毎朝七時には起床して九時までにリーグに行くという、非常に健康的な毎日を送っていた。ちなみにオーバは意外にも時間割というものに対してきっちりする質で、昔から時間にルーズなデンジを窘める役を担っていた(それは今でも変わらない)。
 さて、今日も遅刻することなく出勤したオーバはすることもなくぼんやりとしていた。
 今日は比較的暖かい気候だと思われる。あくびを一つしてから伸びをする。手持ち無沙汰なので窓から空を見てみると、絵の具を塗りたくったような綺麗な青が彼の目を刺した。
 今日も誰もこねーな、と呟いてからどっかり椅子に座る。モンスターボールを指先でくるくると回して遊ぶ―――丁度その時だった。

「あいっかわらずアホ丸出しな顔ですねー」

「………………は、へ?」
 非常に気怠げな声に、飄々とした出で立ち。墨のような彼女の黒髪が風に揺れた。
「……は、ぁ?はああああああああああああ?!」
「うるさっ」
「ちょ、おまっ…え?何で?!」
「ここに来る目的は一つしかないでしょーがァ」
 この前再びホウエンへと旅立った懐かしい彼女が、自分の眼前に佇んでいた。
「いや…だって……マコト…」
「ここへ来ちゃいけませんでしたかー?」
「そんなんじゃねーよ!でも何で急に?」
 またダイゴと喧嘩でもしたのか?と肝を冷やすが、それを察したマコトが首を横に振って否定した。では何なのだろうか。
「言った通り、ここへ来た目的は一つしかないでしょ」
 そう言ってマコトはモンスターボールを手に取る。その様子を見てもオーバは彼女が何の為にここへ来たのか理解するのに、暫く時間を要した。「……えええええええええ?!!」やっとのことで理解すると、叫ばずにはいられなかった。マコトは大袈裟なくらい顔を歪ませて耳を塞ぐ。それに悪態をつきたかったがそれ以上に彼女の目的のほうがオーバにとって重大だった。
「いやほんとどういう心境の変化だよ!?」
「うっさいなー。どうでもいいだろ」
「どうでもよくない!!」
 詰め寄るように問うと、マコトはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて開口した。
「そうですねー、ケジメつけに来たって感じです」
「ケジメって…?え、それが何でリーグ?」
「正確にはリーグじゃなくて、シロナさんですけどねー」
「お前シロナと面識あったのか…」
 そういえば彼女が遺跡の調査チームに加わったのはシロナの推薦だったか、とオーバは思い出す。ついでに彼女とシロナの間で微妙ないざこざがあったことをデンジから聞いていた。おそらく、それが彼女の言う“ケジメ”と関わっているのだろう。
「……へっ、まあお前がどんな理由でここに来ようが別に良いや!実は俺、お前と一回本気の勝負をしてみたかったんだ!」
「そうですかー、実現して良かったですねー。じゃ、遠慮なくやらせていただきますー」
「おうよ!」
 空気が一瞬で変化する。糸が張り詰めたような感触、息遣い、瞳の鋭さ。ボールを握る手に、力がこもる。
 二人はどちらからということもなく、ほぼ同時にモンスターボールを空に投げた。