天候は、快晴だった。今日もホウエンリーグは閑静だ。デボンの仕事はもう終えていて、ダイゴは暇で仕方なかった。
マコトがシンオウへ行って二十日以上過ぎた。音沙汰は無い。あとほんの僅かでひと月が終わってしまう。ダイゴは焦燥感に駆られた。
「ダイゴ、挑戦者が来たぞ」
「……そう。分かったよ…」
四天王最後の砦であるゲンジの言葉に重い腰を上げ、ダイゴは持ち場に着いた。
扉は第三者の接近に応じ、開かれた。ダイゴは背後に感じる気配に何の感情も抱かなかった。
「なんですかそのやる気の無さは」
が、背後からかけられた声に、心臓を掴まれる。まさかそんな、と信じられずに振り向くと、待ち望んだ存在が佇んでいた。彼女はいつもの黒い服ではなく、オレンジパンツにサスペンダーを着けた出で立ちで、穏やかな微笑を浮かべていた。
「さあやりましょーよ、ダイゴさん。私たちが勝ちますから」
あの時の決意した中にあった小さな不安など嘘のように、彼女は自信に溢れていた。仲間を、信じていた。
「…はは………君は本当に、僕を驚かせてくれるね…」
どうしてここにいるのか、これがケジメの中に含まれるのか、訊きたいことは山ほどあったがまずはこの勝負を楽しみたい―――ダイゴはそう思った。心が揺れる。良い意味で、ざわりと粟立つ。疑問なんか取り敢えずどうだっていい。今はただ、彼女と剥き出しの感情をぶつけ合いたかった。
*
「あの子、ケジメつけるってシンオウ行ったのに何でこっち帰って早々ホウエンリーグに挑戦してんだろ」
フヨウは激しく繰り広げられている勝負をモニター越しに観戦しながら、ぽつりと呟いた。
「話によれば、こちらに帰ってすぐにバッジ集めをしていたそうですね」
「かーっ。すげーな、休む暇なしかよ」
プリムの情報にカゲツが感嘆する。
「というかあの子、結局ダイゴのことをどう思っているのかしら」
「休む暇なしでここまで来てんだぜ?そりゃホの字だろ」
「いやあの子供に限ってそれはないだろう」
「オジサンは今時の恋愛沙汰に疎いんだから黙ってて!」
フヨウに一喝され、ゲンジはつい唇を尖らせた。ちぇーっ、とでも呟きそうな顔である。そんな彼を一瞥してからフヨウはモニターに目を戻した。戦いは更に激しさを増していた。それぞれのポケモンたちはそんなつもりなどないだろうが、己のトレーナーの感情を表現しているような戦いっぷりだ。
フヨウはモニターを見つめながらさっき自分も戦ったマコトの闘志に溢れる瞳を思い出していた。以前会った時の彼女はあんな目はしていなかった。もっと冷めた、流し目だった。
(強く、なったなぁ…)
今日がマコトと初勝負だったが、それでも彼女の中の成長をフヨウはしっかりと感じ取っていた。瑞々しくも儚く凝固し、融解し、翻弄し、逆流し、蹲っていた気持ちが、今ではピンと芯が通っている。そう、技術や見識ではない気持ちの強さ。それがマコトにあった。
「ふふっ。それにしてもダイゴとマコトって似てないよねえ」
ポケモンや勝負に対する熱い思いは同じだが、性格は真逆だ。
「そうですね、マコトさんはクールな方ですから」
「ダイゴは石になるとうるせーからな」
「仕事をほっぽり出してしまうしな」
「だからマコトさんに怒られてしまうのですね。まあ、見ている限り怒られるのが割と好きそうですけど」
別にそれはマゾ的な意味ではなく構ってもらえて嬉しいという意味である。
「…まあ自分に無いものを持っていたからこそ、ダイゴはマコトに惚れたのかな」
黒と白、太陽と月、炎と水。違うもの同士、惹かれるものがあったということだろうか。
「良いコントラストだね」
違うもの同士だからこそ、背中を任せて寄り添える。きっとダイゴの空白を埋められるのはマコトだけだろう。
戦いは混迷を極めており、火花が散って水を巻き上げる。トレーナーたちの精一杯の指示とポケモンの俊敏な動き。疚しさや下心など無い、純粋な勝負。ダイゴもマコトもチャンピオンという立場を賭けた勝負だなんて思っていない。今までの想いを吐露するような、語り合うような勝負だ。だからこそ二人の違いや似た部分が見て取れた。
一際大きな衝撃が場を震わせる。次いで波動が地面を抉った。土埃が画面いっぱいになった。
やがて、晴れる。動く影。指示を仰ぐ手。張り詰められた空気。
―――まだ、勝負は続いている。