05.クリスタルに似た輝き

「ちょっとやめてください…」
「何で?良いじゃんちょっとくらい。減るモンじゃないし」
 カイナシティ某所、そこで男女が言い争いを繰り広げていた。男が女に詰め寄って何かを頼んでいるようだ。しかしそれを少女は心底迷惑そうにする。
 この辺りは人通りが少ない。他人の助けは期待しないほうが良いだろう。可哀想に、とマコトは他人事ながら思った。が、わざわざ厄介事に自分から首を突っ込む程、彼女は善人でもない。
 さっさと目的地へ行こうと心に決める。彼女には悪いがマコトは仕事が残っているのだ。睡眠を削りたくはない。
 歩調を早めて男女の横を通り過ぎようとする。
「ほら並んで!」
「ちょっとっ!」
 男はカメラ片手に女を引き寄せた。女は抵抗しようと脚に力を込める。それに対し男は身を動かして彼女を引き寄せた。
 その時、
 ―――ガッシャーン!
「あ…」
「え…?」
 男は通り過ぎようとしたマコトの腕に当たってしまい、彼女が持っていた端末を壊してしまった。
「……」
「あ?んだよお前。邪魔だっつーのあっち行け」
 男は煩わし気にそう言うと、女を抱き寄せた。
「ほら早く撮ろうぜ。ルチアちゃん!」
「や、やだ止め、」
「ねえアンタ」
 少女…ルチアの言葉を遮りマコトは静かに男を呼びかける。
「さっきから何やってんですか。こんなに迷惑かけといて」
「は、はァ?んだよお前善人気取りか?良いだろルチアちゃんと写真撮るくらい。お前俺に嫉妬してんの?」
「…?アンタ何言ってるんですか。別にアンタがそこの人と写真撮ろうが何しようが私にとってはどーでもいいことです」
 あっけらかんとしたマコトの態度に、つい男とルチアは呆気にとられる。てっきり嫌がってるんだから止めなさいなどと言われると思ったからだ。
 「でも」二人の心境など露程も知らず、マコトは続ける。
「この端末…どう弁償してくれるんですか」
「た、端末…?」
 そうして男は漸く、地面に転がっている端末に気がついた。端末は運悪く岩石にぶつかってしまったらしく、一部の部品が外れている。
「俺が知るかよ!お前がここ歩いてたのが悪いんだろ!?」
「ナンパの次は責任転嫁ですか。まったく…目も当てられませんね」
「うるせェ!行けウツドン!」
「更にはポケモンを使って喧嘩しようというのですか。トレーナーの風上にも置ません。…ロコン、お願いします」
 溜息を一つして、マコトはロコンを繰り出した。
「ウツドン、はっぱカッター!」
「かえんほうしゃ」
 ガォォッッ!!
 その愛くるしい姿からは想像もつかないような声を上げて、ロコンは火炎を発射させる。ウツドンは直撃してしまい、一発KOとなった。
「…お、覚えてろよ!」
「無理です」
 捨て台詞を即座に否定し、マコトは壊れた端末とその部品を拾い集める。振り向くと男は既に居なくなっていた。
「…あ、あの、ありがとう!」
「?」
「助けてくれて!怖かったの本当に…だからありがとう!」
「え?」
「え?」
 突然のルチアのお礼にマコトは何のことだか分からず小首を傾げる。一方ルチアも、何故マコトがそんなにも怪訝にしているのか分からず、同じような行動をした。
 二人の間に流れる妙な沈黙に耐えきれず、ルチアは目を逸らして壊れた端末に視線を留める。
「…あ、ごめんなさい端末。私の所為で壊れて…」
「え?いやアンタの所為じゃないですよ。あの男の所為です。それにこの程度なら多分直せます」
「それなら良いんだけど…」
 不安そうに眉を顰めるルチアを一瞥し、マコトは再び歩き出す。「あ、ちょっと待って!」引き留められ、脚は止まる。
「…はい?」
「貴女、石とか興味ある!?」
 いし…、とマコトはその単語を口の中で転がす。その単語で咄嗟にダイゴの顔が思い浮かんだ。
「…まあ、そこそこ」
 ので、ついそんなことを口走ってしまった。だがルチアはそんなこと気にせず、むしろマコトが好きなことを喜んだ。
「だったらもし良ければこれあげる!」
「これは…」
 ルチアから貰った石は不思議な輝きを持っていた。この輝きを、以前どこかで見たことがある。
「本当にありがとうね!それじゃ!」
 笑顔で手を振り、ルチアは颯爽と歩いて行った。
「…変な人だなァ」
 誰も居ない中、唯一その呟きを聞いていたロコンは小さく鳴いた。