07.くるくる回る

 カナズミシティにあるデポンコーポレーション…そこの社長室にて、ダイゴとダイゴの父・ムクゲがソファに座っていた。
「どうだいダイゴ。マコトちゃんは」
「そうだね…彼女は居てくれてとても助かるよ」
「ほほう。それなら良いんだが」
 ニヤリと笑ってムクゲはダイゴを見つめる。それから妙な視線をダイゴに向けた。「…何だよ」思わずダイゴは棘のある声で訊ねる。父の次の言葉に備えて、何となく紅茶でその喉を潤した。
「いやぁ、お前もそろそろ身を固めたらどうだと思ってな」
「な、に言ってるんだ。マコトはまだ十八歳だ」
「おや?私は一言も“マコトちゃんと”だなんて言ってないぞ?」
「…っ!!」
 ダイゴはハッとして、音を立ててカップをソーサーに戻す。それから失言したと己を恥じた。目の前でヘラヘラ笑っているムクゲを睨みつける。しかしダイゴの頬は赤らんでいるので、あまり効果は見受けられなかった。
「…で、随分マコトちゃんを気に入っているようだね」
「うるさいなっ!別に良いだろ!」
「何で怒鳴っているんだ。ハッハッハ」
「〜〜っ親父!」
 相変わらずからかってくる自分の父親に、ダイゴはものすごく恥ずかしくなった。それと同時に勘違いしてしまった自分自身を叩きたくなる。
「いやぁ、最初は心配していたんだぞ?なんて言ったってマコトちゃんはすごく壁を作る子だからね」
「まぁ…最初は苦労したよ」
「そうだろうね」
 ダイゴの返答にムクゲは暫く愉快に笑っていた。だが不意に「そうそう」と言ってノートパソコンを立ち上げた「?」とダイゴは席を立って画面を覗き込む。
「マコトちゃん、ルカリオナイトを手に入れたらしいね」
「…は…?」
「おや、知らなかったのか?これを見なさい」
 画面には紛れなく、ルカリオナイトが映されていた。メールの差出人は“マコト”となっている。ピキ、とダイゴは自分の身体の中の何かが固まった。
「ちょっと出る!」
「おやおや…いってらっしゃい」



「マコトッ!!」
「ダイゴさん、玄関から入ってきてくれませんか」
 ガラッ!と窓を開けて入ってきたダイゴ。「それどころじゃないよ!何で教えてくれなかったの!?」ダイゴはツカツカとマコトに歩み寄りまくし立てた。咄嗟にマコトは一歩退がって距離を取った。
「何をですか?」
「ルカリオナイトのことだよ!」
「…ああやっぱりアレ、メガストーンだったんですか」
「やっぱりアレって…知らなかったのかい?」
「だから社長にメール送ったんです」
「何で僕に訊いてくれなかったのさ」
「ダイゴさんに訊いたらなんか面倒くさそうだったんで」
「面倒くさそうって何!?」
 ショックそうな顔を見せるダイゴを、心の底からウザそうにマコトは見ていた。ダイゴに訊かなかった理由は、訊けば絶対無駄にはしゃぐと思ったからだ。そうして素敵な笑顔を自分に向ける。それがマコトにはなんとなく心のしこりとなるのだ。が、ダイゴはそんな彼女の胸中など知らず、今だにモゴモゴと何かを言っている。面倒な人だなあ、とマコトは白い目をした。
「…まあ良いか。それで、ルカリオナイトは?」
「これです」
 マコトは鞄から取り出して、オレンジ色の球体をダイゴの掌に乗せる。早速ダイゴはまじまじと観察する。オレンジ色の中にダイゴのアイスブルーの瞳が浮かんでいて、宝石みたいだとマコトは思った。
「うん…確かにメガストーン…ルカリオナイトだ。どこで見つけてきたんだい?」
「いただきました。女の子に」
「女の子?」
 キョトン、としてダイゴは目を瞬いた。
「何故か分からないんですけど、女の子が急にあげると言ってきて」
「それはまたおかしな話だね」
「まあいただきましたけど」
「結果的にはルカリオナイトを手に入れることができたし…良かったじゃないか」
 にこ、とダイゴは微笑む。その微笑みにマコトは腹の中で何かが沈んでいったのを感じた。
「じゃあルカリオに持たせようか」
「…そうですね」