01 あの頃の思い出は儚く 昨日から凄く耳鳴りがしていた 私は早く両親を亡くし、この黒崎家に引き取られて早数十年。私の母と黒崎家の母が、なんと幼馴染だったという話は、一護ちゃんが私の通っていた空手教室に来た時まで遡る。 今とはだいぶかけ離れた性格で、負ければすぐに泣くような、そこら辺の男の子と変わらない普通の甘えん坊な子だ。一護ちゃんのお母さんの名前は真咲さんという。真咲さんは、私を迎えに来た母を見るなり驚いていた 「…あの頃は泣き虫坊ちゃんだったのに」 「誰が泣き虫坊ちゃんだって?」 「!!!」 「あのなァ、ドアくらいちゃんと閉めろよ」 「じ、寿命が…」 「どーしたんだよ、電気も付けずに…てかまだ着替えてなかったのかよ」 「あ!ごめん忘れてた!」 「うおおい!!脱ぐなら後にしてくれっっ」 「……ねー一護ちゃん…あの…」 「あ?」 「最近…最近ね、怖いんだ。耳鳴りが酷いし、暫く外にも出歩きたくないっていうか」 「…杏子?」 ぽつりと私の名前を呟く一護ちゃんは、私の話が解らないようだった。急にそんなことを話されてはそれもそうだろう。私だって解らない。 街中で爆発が起きているニュースがここ数日として報道されている。そう、それからだ。何故だかとてつもなく原因不明の耳鳴りが酷くするのは 「震えが止まらなくて…凄く不安で…」 「……」 「…一護、ちゃん」 「昔よくこうしてくれてたよな。べそっかきだった俺を泣き止むまでずっと」 「…うん。でも…」 「っ…」 「暫く、こうしていい、かな…」 「…杏子…なんで、もっと早く俺に言わなかった」 「……ごめんなさい」 一護ちゃんが練習で負けて泣く度に、私は背中から回って頭をよく撫でていた。今は私が椅子に座っていて、思い出した様に後ろから一護ちゃんが抱きしめている形になっていたけど、私は立ち上がって、今度は抱きつく姿勢になる。 悲鳴のような、小さくどもった声が聞こえた気がしたけれど、一護ちゃんはぎこちなく私を抱きしめてくれた。そこに、あの時の泣き虫で甘えん坊な男の子はいなかった。ちゃんと、立派な男子高校生だった。 「ったく、しょうがねーな。今日一緒に寝てやってもいーぜ」 「あ、うん!そこまでじゃないからっ」 「……悲観的な割にあっさりしてるよなオマエ」 「なんかスッキリしちゃった!そんなに一緒に寝てほしいなら一緒に寝てあげる!」 「いらん!萎えたから戻るっ」 「えー、けちー」 「ケチじゃねーだろボケッ」 「あ!またそんな口の利き方するっ」 「おめーは俺のおふくろかよっ」 そう言えば一緒に寝たこともあったっけ。と、物思いにふける。今じゃ成長しかけている段階だし健全ではないことくらい私でも… ーひとつ屋根の下でー END ※ブラウザバック推奨。 |