02 空想だとばかり


 「………」
 「こら、杏子!口開いてるよ口!」
 「え、うそ!」
 「全く…一護となんかあった?」
 「…えへ」
 「昔からそうよね、嬉しいことあると」

 ぼーっとしていて気付かなかったけれど、声をかけられたのがたつきちゃんでよかった。口が開いてるなんて、はしたない。一護ちゃんとは分け隔てなく話せそうで、私が考えすぎていただけらしい。
     ただ、耳鳴りのことはまだ解決していないせいもあって、たつきちゃん達ともどう接していいか悩んでいた。

 「ま、よかったんじゃない?すっごく嬉しそうだよあんた」
 「えへへ、まだ本調子じゃないけど…」
 「黒崎のどこがいいんだか…ねぇ杏子、あたしならいつでも大歓げっっ!!」
 「ざんねーん、千鶴の入る隙間なんてこれっぽっちもないから!」
 「…た、たつきちゃん…吐血してるから…」
 「ねー杏子。ずっと気になってたんだけど…付き合わないの?あんた達」

 若干危ない発言をしている本匠千鶴ちゃんと、爆弾を落とした発言をした小川みちるちゃんに、私は目が泳ぎしどろもどろになる。

 「え、えぇっ?!幼馴染だよ、無理無理無理!すんごい無理!!」
 「みちる、あんた天然よね」
 「え、何?!悪いこと聞いた?!」
 「幼馴染でもさ、付き合えばなんてことないんじゃない?」
 「真花、それは直球すぎるよ!」
 「あんたもね」 
 「…あはは、解んないよー…だって、今までずっと幼馴染だって思って来たし…」
 「……たつき、あんたから見て黒崎と杏子はどういう感じなの?」
 「知ってるけど言わない」

 夏井真花ちゃんまでそんな。確かに一護ちゃんのことは好きだけど、その好きってことじゃなくて友達というか…
 そんな感情になったことすらなかったというか…
 本当に、家族として接して来た分、私がその感情すら抱くのは失礼じゃないかって思ってた。

 「何々、どんな話?」
 「あらヒメ!黒崎と杏子がづっっ」
 「はーい、過剰なセクハラはやめましょうねー」
 「く、黒崎君が杏子ちゃんにセクハラ?!」
 「姫ちゃん、だいぶ違う…」
 「こーら席に着けよー。予鈴なってんぞー」

 私の中の一護ちゃんは泣き虫で甘えん坊で、そこら辺の男の子と変わらない感じなのだ。其れを突然、付き合うだの付き合わないだの話をされては困惑してしまう。好きなんだけど、そうじゃない。



 「……!まただ…」

     帰り道。例の耳鳴りが頭の中に響く。やはり幻聴じゃなくて本格的に酷く鳴り響き、さらには頭痛までする様になっていた。

 「何か、近づいて来る…」
 「ウォォオォォオ!!」
 「っ!!」
 「    舞え、袖白雪!!」
 「!?」
 「………」
 「あ、あの…!」
 「…やだ、また爆発なの…?!」
 『あれ、おねえちゃん!』
 「この間の…」

 一瞬だけど、何かふわっと見えた気がした。それと同時に黒い着物を着て、刀を身に付けた女の子が見えたけど、彼女は一瞬此方を見ると消えてしまった。
 どうやら私にしか見えていないらしい。私をおねえちゃんと呼んだのは、ユーレイの女の子だ。
 亡くなった場所でヤンキー達が知りながら遊んでいるところを、一護ちゃんと私が助けてあげて以来、知り合いになった。


 「……耳鳴りとさっきの女の子…うーん…」

 夕方。自室で考え事をしていると、隣の一護ちゃんの部屋から暴れている様なそんな音がして慌てて部屋を覗きに行く。

 「一護ちゃん、どうし…!」
 「杏子、来るな!」
 「む?貴様は昼間の…そうか、兄妹か」
 「ちげェ!そいつは俺の幼馴染だ!」
 「…えっと…一護ちゃん、なんで一人でそんなSMみたいな格好…」
 「……見えてねーのか…?」
 「見えてるって…」
 「先の出来事で私はてっきり見えていると思ったのだが、思い過ごしだったようだな」
 「何、誰かいるの?もしかして    

 一護ちゃんの部屋を覗くと、一人で海老反りになっている一護ちゃんがいた。どうやら私には見えない誰かと会話を挟んでいるようで話が全く噛み合っていない。私には、その誰かが何処にいるのかさっぱり解らなかった。

 「っ!」
 「杏子、どうした!」
 「だ、大丈夫。この間話した耳鳴りが…」
 「…耳鳴りってまだ治って…!」
 「揃いも揃っておかしなことを云う。もう少し私に解りやすく説明しろ」
 「おい死神!オマエには聞こえねーのか?!このスゲェ声が!!」
 「う…死神、さん…?あ、見えた…私にも…聞こえるよ、立っていられないくらい、凄い声が」

 さっきまで解らなかったけど、昼間に見えた黒い着物を着た女の子がいた。険しい表情を見せる彼女には聞こえていないのだろう。頭に響くこの凄まじい声は間違いなくユーレイ   

 「凄い声…そんなモノ……!聞こえた、間違いない虚の声だ!!」
 「ほら見ろ!!」
 「きゃぁぁぁあああ!!!」
 「遊子ちゃん!!!」
 「ば、バカ行くな杏子!!死ぬぞ!!」
 「行くぞ!!」
 「おい待てっ!!」

 一階から、一護ちゃんの妹の遊子ちゃんの悲鳴が聞こえた。おじ様は出張でいないし、まさかそのホロウとかいうユーレイがウチに来てるなんて…

 「凄い風圧…!!」
 「なんという霊力だ…これはそんな生半端なモノではない、虚の霊圧だ…!私も初めて体感する」
 「そのホロウって一体…そうだ遊子ちゃ…!」
 「お、にいちゃん、おねえ、ちゃん…たすけて、夏梨ちゃんが…!」
 「遊子ちゃん…!」

 恐怖に襲われながら必死に駆け上がって来たのだろう。遊子ちゃんはボロボロになりながら二階に駆け上がって来た。此処なら安全だ。気を失った遊子ちゃんを寝かせて私は一気に階段を駆け降りる。
 ユーレイとはまた違った化け物が、遊子ちゃんと双子の妹の夏梨ちゃんの身体を鷲掴みにしていた。

 「夏梨ちゃん!!!」
 「って…!!」
 「一護ちゃん…!もしかして死神さんに変な術かけられてるの…?!」
 「っ、うおおお!!!」
 「よせ!人間の力では解けん!!無理をすれば貴様の魂は…?!」
 「うおおおおおおおおおっ!!」


 どうやら死神さんが、一護ちゃんに動けない術を掛けたようだ。すると一護ちゃんは、自力でその術を解こうとし始めた。


ー其れは天を仰ぎ、覆したー END
※ブラウザバック推奨。