悲劇
 梅雨時に降り注ぐ雨はジメジメとしてやるせなく感じられる。工藤新一という有名な高校生探偵を兄に持つ早希は、電話ボックスの横で傘を挿しつつ、ボーッと空を見上げて彼を待っていた。
 兄、というには何処かおかしく、歳が離れた弟の間違いなんじゃないかと思わせる背格好に第三者からは見えるのだろう。しかし、これが現実だった。

 「   たく…」
 「さっきあの子達が素通りしてったよ」
 「ああ、気付いたよ。それで強制終了したけどな」
 「あ、ひどーい。蘭ちゃんにとっては久しぶりの電話なんだからね!」
 「バーロー、いつも一緒にいんのに久しぶりもクソもあるかよ」
 「んもう…あ、そうだ!平次くんが来週こっちに遊びに来るって電話もらっちゃった」
 「めんどくせーな、あいつが来ると」
 「ふふふ、それよりも…」

 早希が素通りしてった子達の方を見て、兄である工藤新一   仮の姿の江戸川コナンに視線を促せようと指を指した。彼らを見ると、何やら参っただの早く見たいだのと楽しそうな声が聞こえてくる。

 「お兄ちゃんも人気者ね」
 「ば、バカ、お兄ちゃんって呼ぶな」
 「聞こえてないって!そこの少年探偵団諸君」
 「あっ!早希お姉さんにコナン君!」
 「何が参っただよお前ら」
 「聞きたいですか?」
 「灰原さんにコナン君ってどんな人だと思う?って聞いたら、月を見ながら“夏じゃない?″って答えたの!」
 「あ、そう言えばそんなこと…」
 「早希お姉さんは答えちゃダメですよ!コナン君の問題ですから!1、灰原さんはコナン君を褒めた!2!コナン君を貶した!さ、どっちでしょう!」

    ああ、それでニヤニヤしてたのか、と早希は困り顔になりながら苦笑した。吉田歩美、円谷光彦、小嶋元太ら三人の小さな少年探偵団は、さらにニヤニヤしつつコナンの返答を待った。
 しかし彼らの期待はすぐに打ち破られてしまい、コナンの参ったの顔を見るより先に、彼らがガッカリとした顔になる。

 「答えは2だ!」
 「え、どうしてですか?」
 「夏の時期は6月、7月、8月だ!で、6月7月8月ろくなやつじゃない!」
 「すごーい!やっぱりコナン君ね!」
 「ちぇっおもしろくねーな!」
 「でも賢いじゃない、その話をクイズにするなんて」
 「「「えへへ〜っ」」」
 「甘やかしてんじゃねーよ」
 「あ、青だ!渡ろーぜ!」
 「ダメよ、み「こら!渡っちゃいかん!」」

 元太が注意表示でもある点滅する青信号を見て急かすように走り出した。しかし、早希が静止しようとした束の間、サラリーマン風の男性に注意をされる。

 「確かにそこのお姉さんが正しい、青の点滅は黄色と同じなんだよ。次の青信号になるまで待ちなさい」
 「はーい」
 「……怒られちゃいましたね」
 「ごめんねみんな、もう少し早かったら…」
 「早希お姉さんは悪くないよ!お姉さんとおじさんの言う通りだもん」
 「   じゃあ、今度はオレからの問題だ。あのおじさんの職業は何だと思う?早希姉ちゃんも答えてね」

 嫌味たっぷりな顔で、自分の妹を見るコナン。少しムッとした早希は、近くの電話ボックスに入った男性の様子を子供達と遠目で観察する。
 スーツを着ていることから学校の先生や営業マン、弁護士と次々思い当たる職業が浮かぶ。何故か元太だけは鰻屋と、個性的な回答だ。

 「でも身軽だし手ぶらね。もしかして固い職業だったりして」
 「その通り、答えは警察官さ」
 「え、どうして?」
 「警察官はメモ帳を縦に使うんだ、大事なことをわかりやすく書くためにね」
 「さっすがコナン君!何でもよく知ってますね」

    男性の名は、奈良沢治。階級は警部補。文字通り警察官で、早希とコナン達はやはり事件に巻き込まれてしまい、彼が電話ボックスから出る直前、何者かに数発撃たれる音が白昼に響く。
 犯人はすぐに逃走し、信号を渡り切った後のコナンでは行方が追えず、再び戻って奈良沢に犯人の特徴を確かめようと問いかける。しかし彼は左胸を苦しそうに示して息を引き取った   


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