開幕
 捜査は難攻を示した。奈良沢治に続き、刑事である芝陽一郎が自宅マンションの地下駐車場で射殺される。新聞やニュースにも大きく取り上げられ、警視庁捜査第一課所属の警部・目暮十三と白鳥任三郎はますます険しい顔で、お互いに厳密だと肝を据えたのだった。

 「   なーんでお前が来とるんだ?平次」
 「気にせんといてや!オレのおとんが急に出席でけへんようになってもうてからに、オレが代理やねん」
 「しかしどこでどう繋がりが…」
 「オレのオヤジが担当した事件の弁護士の新人ってのが白鳥っちゅう姉ちゃんでな…それでや」
 「ああ、その話なら聞いたことあるわ。彼女が大阪に出張だった時のことをね」
 「まーなんだな、白鳥の妹も間が悪いっつうか……何もこんな時にしなくたって…」

 米花サンプラザホテルで行われる白鳥警部の妹の結婚を祝う会には、西の高校生探偵の服部平次、早希やコナン、名探偵の毛利小五郎や娘の蘭、妻で弁護士の妃英理はもちろん、早希と蘭の幼馴染みの鈴木園子が招待されていた。
 警察官殺傷事件が起きたのは彼女のせいでもなんでもなく、結婚式とは違う″祝う会″    主宰者は新郎新婦の友人達であり、披露宴は1ヶ月前に決まっていた。

 「白鳥警部に妹さんがいたなんて初耳ね」
 「ほー…なんやけったいな事件起きとるから、大阪の人間は管轄外やっちゅうのに……めんどいことにならんとええな」
 「不謹慎なこと言わないでよ」
 「……いい感じだね、早希ちゃんと服部君」
 「あたしは目星が付いてる男には興味ないからお好きにどーぞって感じ!でもま、早希を泣かせたら招致しないけどね」
 (ま、オレもだけどな)

 エレベーターを降りて会場に向かう廊下で、コナンのライバル的な存在となっている同じく高校生探偵の服部平次と、出会った頃から何かと世話を焼いている早希の後ろで蘭と園子はニヤニヤしていた。
 一方で面白くないのは、兄としてのプライドがあるコナン=新一だ。妹を関西人のヤローに取られ、結婚でもすればお兄さんと呼ばれるのはそれは避けたいところ。

 「   すっごい、たくさん来てる!」
 「警部殿も来てるぞ」
 「……警察関係者は一目で分かるわね。目付きも悪いし、重苦しい雰囲気だわ」
 「…無理もない、例の事件の捜査で、パーティどころじゃねんだろ」
 「でも、佐藤刑事はいつも明るいわ」
 「ほんと!警察官じゃないみたい」
 「お!小田切さんだ、ちょっと挨拶してくる」

 小田切敏朗   英理によれば、小五郎が刑事だった頃の課長で、今は警視長及び刑事部部長のようだ。

 「皆さま大変長らくお待たせ致しました、新郎新婦のご入場です!盛大な拍手でお出迎えください」

 会場の照明が落とされ、司会者のみにライトアップされると、ドアが開かれ華やかなドレスに身を包んだ白鳥警部の妹と、その夫となる晴月氏が登場した。会場内は新郎新婦らの友人達の祝福で、一気にボルテージが上がる。すると、コナンはパーティーには似つかわしくない服装の男を見かけたが、颯爽とこの場を去ってしまった為に不思議に思った。

 「どうしたの?お兄ちゃん」
 「……いや…」
 「別嬪な姉ちゃんでもおったんか?」
 「ちげーよ!なんでもねぇって!」
 「変なの」

    華やかにパーティーが幕を開けた。しばらくして、小五郎達の元に白鳥警部と心療内科医の風戸京介を連れて挨拶にやって来た。心療内科という聞き慣れない名前に、白鳥警部は口ごもりながらも話をする。警察官といえど、ストレスや部下達への配慮で色々と苦労しているらしい。

 「それでですね、毛利さんも一度見てもらったほうがういいかと思いまして…」
 「そうだなぁ…オレも近頃記憶が   っ、コラ!どういう意味じゃ!!」

 白鳥警部のジョークに乗ってしまった小五郎は我に返ると否定した。コナン達は笑いに持っていかれるが、コナンだけが盛大に笑い飛ばしており、小五郎に鉄剣を食らう。

 「オメーは笑いすぎなんだよ!」
 「いってー!」
 「やりすぎやでおっちゃん」
 「お…!警部殿!!」
 「毛利君か」
 「……その後、調査の方は…」
 「   すまんがその話はナシだ」
 「…!なんで話してくれないんだ……」

 いつになく冷たい態度の目暮に、小五郎は戸惑いを隠せない。先週から電話をかけても断られ、まるで事件の真相を明かしたくないような雰囲気に捉われる。随分と待ち続けたが、態度を変えない目暮に、怒りとも言える小五郎は焦りを覚えた。

 「きっとおじさんに言えないことがあるんだよ」
 「パーティーやっちゅうのに、えらく厳しい顔しとったしな」
 「何…!おい高木、そうなのか?!」
 「い、いや別にっ…!」
 「ねぇ、高木刑事って佐藤刑事のことが好きなんだよね?」
 「え、それほんと?」
 「   ち、違うよ早希ちゃん…!」
 「そりゃあおもしれぇ、彼女にお前の気持ちを伝えてやるよ」
 「ちょ、ちょちょちょま、待って下さい!分かりましたよ…!マスコミには伏せているんですが、実は芝刑事も警察手帳を掴んで亡くなっていたんです……」
 「   何?!」

 亡くなった奈良沢警部補に続き、芝刑事も同じく警察手帳を掴んでいた。彼らのダイイングメッセージらしきそれは、小五郎やコナン、平次も同じく勘付いた。

 「それ以上の詮索は無用です毛利さん」

  Need not to knowニード ノット トゥ ノウ

 「   そう言えば、お分かりでしょう」
 「っ…! ″知る必要のない事″だと……バカな……」

 先程まで明るかった白鳥警部の声色が重苦しく感じられる    Need not to know.警察の間で使われている隠語は、前職が警察だった小五郎にとってあまりにも分かりやすかった。この事件の犯人は警察官、または警察の上層部が関与しているかもしれないという事   


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