結晶世界



女の子は花のよう、星のよう。
けれど本当は、人生がそれほど綺麗なものではないことを私はとっくに理解しているつもりだった。
女学校を出たら決められた相手と結婚して妻になり、母になる。そしてそんな未来は、もうすぐそこまで来ているのだということも。
「なまえ・・・何を考えているの?」
月のない窓辺、降る星を見上げていた摩利の声がした。
「なにも」
「そうは見えなかったけど」
美しい従兄、誰にも秘密の初恋の人。嫁いだらこんなふうに過ごす日はもう二度と来ない。
「私の人生ってなんのためのもの?」
思わず零れた気持ちを、摩利は静かに拾い上げた。
「君のためのものだよ」
「ままならないのに・・・私が私であることは本当に必要なの?」
「誰にだってままならないことはある」
冷たく響いた答えにひどく傷ついて思わず彼を振り返る。けれどすぐに理解した、彼もまたままならない何かを抱えているのだと。
引き結ばれた口元、憂いを秘めたまなざしが青い夜に浮かび上がる。
やがて摩利は言った。
「おれは、君が君のままでいてくれなきゃいやだな」
「・・・なら、摩利もそうして」
驚いた表情の彼に私は「約束して」と続ける。
「・・・分かったよ、従妹どの。約束」
小指と小指が絡む、甘美な瞬間。
「私、忘れないわ」
摩利は何も言わない。けれど、それで良かった。
「君が何を不安に思っているのか分からないけれど・・・同じ時間を重ねていけば、いつかきっとかけがえのない存在になるよ」
「そうならなかったら?」
彼は「あいかわらず心配性だね、従妹どの」と笑う。
「案外どうにかなるものさ。それに、・・・そんなことを考えていたら生きていくのがつらくなる」
そう言って摩利は、オルゴールのねじを巻いた。ひとつだけ芯が飛んでしまった、澄んだ音色。
「・・・音が」
「いいの」
摩利が私のために贈ってくれた宝物。
「私はこれがいい」
この夜を、私は一生忘れない。結晶のような、私だけの、たったひとつの世界を。


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