カフェオレとココア



「ねえモモ、うちで事務やってる子ってさ」
「ん?それってなまえちゃんのこと?」
そうそう、とユキは頷く。
「僕のこと苦手だよね」
「あ、やっぱ分かっちゃう?」
「分かるよそりゃあ」
オレが「こんなにフレンドリーなのにね」と言うと、
「実はこないだ、直接聞いてみたんだ」
「直接・・・!?」
なまえちゃんが社内の自販機でドリンクを買っていた時、後ろから膝カックンしたらしい。
「驚いた?って聞いたら「はい」って答えたから、僕がきらい?って聞いたんだよね」
「おおう・・・まさかのド直球・・・」
「そしたら、千さんみたいなタイプがちょっとって困った顔してさ」
「マジかあ」
「だからタイプってどういうの?って聞いたんだけど」
「まだいくの!?」
「 俺のことよく知らないでしょって言ったら頭下げて謝られちゃった。別に怒ってるわけじゃないのに」
「あー・・・それはさすがに、なまえちゃんかわいそうかも・・・」
なんで?と首を傾げるユキにオレは「そういうとこ!」と言った。

***

「あ、なまえちゃん!」
フロアで見つけた背中に声をかけると、彼女は振り向いて「百さん」と笑顔を見せて立ち止まる。
「おつかれ。ひとり?」
「はい」
「そっか。ってこれナンパしてるみたいだね」
そうですね、となまえちゃんは笑う。
「・・・ねえ、ユキのこと苦手?」
先回りして「オレ絶対言わないよ」と誓う。
「・・・顔に出ない感じが、少し」
あー、ユキってそんなふうに思われてるんだ・・・。
「男の人と話すのにあんまり慣れていなくて。あんまりいい印象持たれないんですけど」
ぽんぽんと言葉が出てこないんです、となまえちゃんは申し訳なさそうに言った。
「女の子同士ならそんなことあんまりないんですけど、なんでか緊張しちゃって・・・だから百さんにも、あの、失礼な態度をとっていたらすみません」
「いやいや!オレは全然そんなこと感じてないよ!うんうんそっかー、なるほどねえ・・・」
オッケ!とオレは手を打つ。
「じゃあさ、お互いをもっとよく知ったら仲良くなれるんじゃない?」
「え?」
「ユキが目の前にいたら緊張してなに話せばいいか分かんなくなっちゃうんでしょ?なら、もっといろんなユキを知ったらいいんじゃないかな」
「いろんな、千さん」
「そうそう。だってなまえちゃん、今オレと話しててもそんなに緊張してないでしょ?」
はい、と頷いてくれたのをみて安心する。
「よかったー・・・ってホントに?嘘じゃない?気を遣わなくていいからね?」
「百さんは大丈夫です、本当に。いつも気を遣ってくれてありがとうございます」
「そんなことないよ、オレは全然いつも通りだからさ。だからユキも、なまえちゃんが緊張しちゃうってこと知ったら、ちゃんと会話してくれると思う。けっこう気にしてたから」
「え、」
「あ、今のなし」
「気にされてたんですか」
オレは「あれはユキがよくない」と断言する。
「膝カックンからの僕が嫌い?って、好きか嫌いかの二択はないでしょ」
あはは、となまえちゃんはおかしそうに声を上げる。
「あの時は本当にびっくりしました」
「だよねえ」
なまえちゃんはいい子だし、ユキとも仲良くなってもらいたいな、とあらためて思った。

***

「(・・・ってワケ、って言われてもね)」
モモと話すのは平気なくせに、なんで僕は緊張するの?とモモの目を見て問えば「ほらあ、そういうとこ!」と怒られた。
「あのね、今みたいにぐいぐい追求するの禁止!」
「はいはい、ゴメン」
という会話を思い出しながら、あの時と同じように自販機の前で悩んでいる彼女に声をかける。 
「あのさ」
「!・・・千さん」
「この間はごめん。それと、今ちょっと時間ある?」
「え、あの」
「忙しい?」
「いえ、休憩時間です」
「よかった。君とちゃんと話がしてみたいと思って」
「・・・私と?」
「そう。あ、ドリンクどれにするの?」
「あ、迷ってて、カフェオレとココアで」
「ふうん」
千円を投入して躊躇うことなく両方のボタンを押した。
「はい、どうぞ」
「えっ」
「小さいし、どっちも飲んだら」
右手のココアと左手のカフェオレ。順番に目をやった彼女はぷっとふき出す。
「・・・笑った」
「あ、すみません、でも・・・千さん強引だからおかしくって」
なんだか気まずくて、適当にコーヒーを買ってエントランスのソファに腰を下ろした。間隔を空けて座った相手に、「僕といると緊張する?」と尋ねる。
「え、」
「なに言われたって怒らないよ」
そう言うと苦笑されてしまった。
「すみません、正直に言うと少しだけ」
「ふうん。なんでかな。怖いの?」
「いえ、怖くはないです」
「そう、よかった。ていうか、けっこう長い付き合いだよね?」
「そうですね・・・でも、千さんは芸能人なので緊張します」
「モモも芸能人だけど?」
「そうですけど、んー・・・なんでだろう・・・」
僕たちの曲は聴く?を問えば「あ、聴きます!」と返ってくる。
「全部大事に聴いてます!」
「大事に、ね。ありがとう。他にはどんな音楽が好き?」
「洋楽が好きで、ロックとか・・・レッチリとか」
「え、レッチリ?」
思わず聞き返してしまった。
「なんか意外だね」
「よく言われます」
「・・・僕はさ、なまえと話すの好きだよ」
すると彼女は目を丸くした。
「なに?」
「名前、知ってるんですね」
「さすがにね、名前も知らない相手に膝カックンはしないよ。あの時はすいませんでした」
なまえは「ふふっ」と笑った。
「このタイミングで謝るんですね・・・」
「一応謝っとこうと思って。モモにも怒られたし」
私と話したってつまらないですよ、となまえは言った。
「なんで?」
「面白い話とかできないですし」
「そう?レッチリよかったよ」
「あれは別に面白いわけでは・・・テンポも下手くそだし」
「そうかな、僕は気にならないけど」
千さん、となまえは困ったように僕を呼ぶ。
「ねえ、まだ緊張する?」
「前よりは、しないです」
「よかった。あのさ、もっとなまえのことが知りたくなっちゃったんだけど、どうすればいい?」
「ヒエッ・・・」
「ヒエッて、あはは!ほんとに言う人いるんだ」
「います!ここに!もう・・・千さんタチ悪い・・・」
「言っとくけど、万のほうがタチ悪いよ」
「バンさんって誰ですか」
「モモの前に組む前のパートナー」
心地良い会話をしながら、もっと彼女を知るためにはどうすればいいのか、カフェオレとココア二本分の時間を使って考えることにした。


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