ŹOOĻと臨時マネージャー
昼休み。
「いすみんとこさあ、マネージャー変わったんでしょ?」
「いすみんて呼ぶな。変わった」
「チーフマネージャーでしたっけ?」
「うわ、なんで知ってんの?ちょっと怖いんだけど・・・」
オレの言葉を無視して「相性はどうです?」と和泉は尋ねた。
「んーまあまあ・・・?いい人っぽい気はするけど、まだよく分かんない」
いい人だといーね、と四葉は笑う。
「信用できる人がいいです」
「分かる。だって俺、ユニット組む時けっこー不安だったもん」
「分かります」
「不安?なんで?」
「初対面でバスケやらされて、そしたらいきなり人数絞りますって言われた」
「なにそれ、脈絡なくない?」
和泉は、
「鮮烈なデビューをした ŹOOĻは自分でフライヤーとか撒いたことないでしょう」
と言った。
「え、ていうかあるの?」
「ありますよ、下積み舐めないでください」
「いおりんさ、スキンヘッドにグラサンかけた人に声かけてたよね」
「あれは・・・全然受け取ってくれないので藁にも縋る思いで。でもずっと観に来てくれてますし」
古参だよね、と四葉は言った。
「いい方ですよ」
オレは「あのさ」と口を開く。
「今日、迎えが来るんだよね」
「えっ!いいなーいすみん」
「だろ」
そちらのチーフマネージャーにご挨拶できますかね、と言われ「いや」と口ごもる。
「今日は別のヤツ。臨時でもうひとり入ったから」
「どんな方ですか?」
「なんか・・・きれいだとは思う・・・」
「そういうことを聞いているのではないんですが」
ジト目で見てくる和泉に「ホントなんだって!」と反論する。
「仕事ぶりはどうなんです?」
「・・・オレは今日死ぬかもしれない・・・」
「は?」
本気だった。あのドライブテクを味わったら最後、二度目は死を覚悟するしかない。
「え、なんで?」
「そういう予定だからだよ」
「なんで死がスケジュールに入っているんですか・・・」
ヒモなしバンジーでもすんの、と四葉は不思議そうな顔をする。
「はー・・・」
オレはなまえを気に入っている。臨時とはいえ真剣に仕事を覚えようとする姿勢には好感が持てたし、優しい。きれいな顔立ちは笑うと可愛い印象になる。「プライベートでも仲良くしてやってもいいけど」みたいな、子供じみた独占欲を抱いてしまうほど気に入っているのだ。
運転を覗いては。
ハンドルを握った瞬間、空気が変わる。「行きますよ」の掛け声とともに彼女はあらくれに豹変する。
急発進急ブレーキは当然、減速せずにカーブを曲がり、ひどい時にはドリフトする。同乗者はガンガンゴンゴン頭をぶつけ、脳細胞は死んでいった。
「誰かコイツから免許を取り上げろ」女に甘い虎於が真顔で言うのだから間違いない。
そんな彼女から連絡が入ったのは4限の終わりだった。
”本日は私がお迎えに行きますので、校門で待っていてください”
「・・・・・・!」
思わず白目を剥いた。あわててタクシーで行くから平気、と送るも返事は ”大丈夫です(力こぶマーク)” の一言。
「(終わった・・・)」
スタントマンになれば確実に売れるのにな、と窓の外を眺めながらぼんやりと思った。
***
「・・・・・・・・・」
「いすみん顔色めっちゃ悪くね?」
「うるさい」
「土みたいな色してますよ」
すべてを諦めて背中を丸め校門で待っていると、一台のセダンが停まった。ドアが開く。
「亥清さん、お疲れさまです」
おわ、四葉が呟く。
「え、この人がマネージャー?」
「そう、臨時だけど」
みょうじと言います、と彼女は頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「和泉といいます、こちらこそよろしくお願いします。すみません、もしよろしければお名刺とかいただけますか?」
「あっハイ、あります、えーと」
「ちょっと待て!なんで普通に連絡先もらおうとしてんだよ!」
「違いますよ、失礼な。緊急連絡先は知っておいたほうがいいでしょう」
「いーし別に。行こう」
「え、でも」
「緊急の時はオレに電話して」
背中を押され、なまえは運転席に乗り込む。
「いいんですか?」
「いーよ別に。早く行こ、・・・」
言ってからしまった、と思った。ブロオン!と乱暴にエンジンがかかる。
「では行きますよ」
地獄のドライブが始まる。死出の旅路だ。
「うわっ!」
発進の勢いで背もたれに体が押し付けられる。
「すみません、大丈夫ですか?」
「いや、いいけど・・・」
よくなかった。彼女がアクセル、ブレーキを踏むたびオレはどこかしらをぶつける。
「おまっ、前より運転荒くなってないか!?」
「すっすみません!」
わああなどと悲鳴を上げながらはなまえは果敢にハンドルを握っている。初めてのドライブテクを目の当たりにした時、虎於は気絶していたしトウマも血の気が引いていた。助手席に乗っていた巳波が問う。
「あの、一応お聞きしますがちゃんと免許持ってるんですよね?」
持ってます!となまえは答える。
「だけど普段は乗らないので」
「つまりペーパードライバー・・・?」
「はい、でもゴールド免許です!」
乗らないんならそりゃそうだろと誰もが思った。ゴンと思いきり天井にぶつけた頭が二重の意味で痛い。
「ぎゃああつっこむなバカ!」
「でも時間が、」
「いーから安全運転しろ!」
ブレーキを踏んだ瞬間キキッとタイヤが鳴る音を直に聞くのは初めてだった。もう遅刻でもなんでもいい、身の安全だけは確保してくれ。恐怖のドライブは集合5分前にようやく終わりを告げた。
「疲れた・・・!」
「おつかれさまです!荷物持ちます」
オレはぐったりしながら「アンタ三半規管どうなってんの」と呟く。
「ぐるぐるバットには自信があります」
「あっそ・・・」
撮影前のメイク中「お疲れですか?」と尋ねられ、
「いや別に・・・まあ、ハイ」
と蚊の鳴くような声で答える。スタジオに入ると、駆け寄ってきたなまえ がドリンクを差し出してくれた。
「ありがと」
喉を潤し、深呼吸をする。集中。
「行ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
にこにこしている彼女が、あの凄まじいドライブをしたとはとても思えない。まあ欠点は誰にでもあるしな。
そしてすぐ、こういうところが甘いって言われるんだよな・・・と考え直す。いつかオレが免許取ったら乗せてやろう。きっと彼女はすごいすごいと驚くことだろう。
「あのさ」
「はい」
「オレが免許取ったら最初に助手席に乗せてやるよ」
「えっ、いいんですか?」
「うん、約束」
やった、となまえは目を輝かせて喜んでいる。可愛い。
亥清さーんと呼ばれて「今行きます」と答え、なまえのぴょんと飛び出した髪を直してやる。
「鏡、見てきなよ」
「ありがとうございます、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
さっきと逆のやりとりがなんだかおかしくて後ろ姿を見送る。
「あ、そうだ」
「ん?」
「帰りもちゃんと自宅まで送迎しますからねー」
「えっ・・・・・・」
カンベンしてくれ・・・
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