あなたとルナティック 番外編


「聞いてほしいことがあるんだけど」
「なんです?」
フィッシュアイのこと、と言われホークス・アイは「はあ」と曖昧に頷く。
「勤務態度?素行不良?いつものことじゃないの」
「あの子、最近なんだか妙に・・・キレイになったと思わない?」
含みのあるタイガース・アイの言い方に彼の姿を思い浮かべる。
淡い色の髪をふわりと風に靡かせ、昼の光の中で消えてしまいそうな繊細な美しさ。真夜中のネオン街、妖しく光り輝く宝石のような姿。ナルシスのような、アフロディーテのような、捉えどころのない中世的な美貌。
「あ〜・・・」
「 分かるでしょ、僕の言いたいこと。なんか可愛く見えちゃうのよね・・・」
やだわ、とタイガーは困ったように唇を尖らせる。
美人なら光源氏もびっくりするような幼い美少女までストライクゾーン、ただし男は絶対NG。
美魔女美熟女品のある老婦人、ターゲット層は上に限りなく広いけれど野郎だけはNG。
「「しっかりオトコなのよねー・・・」」
その時、カツカツと軽快なヒールの音が聞こえて彼らは思わず背筋を伸ばした。
「なんだかノドが渇いちゃったわ」
しなやかな動作で美青年は席につくと、バーテンダーに短く告げた。
「ジン」
レースのような長いまつげ。輝く宝石のような瞳。まっすぐな鼻筋。薔薇のような唇。陶器のような白い肌・・・。
「・・・なに?」
2人の視線に気づいたフィッシュ・アイは首を傾げる。
「別に?」
「なんにも?」
「そお・・・?」
ホークス・アイは「ねえ、今夜は仕事?」と尋ねる。
「ううん、休みよ」
「そ。じゃ僕たちとゆっくりできるのね」
「なによそれ」
きゃらきゃらとフィッシュ・アイは笑う。
「どうしたの2人とも、なんだか変よ」
「別に。最近アンタが冷たいからさ」
「なあに、僕に優しくしてほしいの?」
涼しげな流し目。その色っぽさに2人は思わず喉を鳴らす。
「・・・ねえフィ」
「あっ!」
突然フィッシュ・アイは叫んで立ち上がる。
「なによいきなり、どうしたっての?」
「予定があるの、忘れてたわ」
彼は豪快にぐいっとジンを飲み干すと「からーい」と渋い顔をしながらあわててパフをたたく。
「予定って?」
「デート」
その一言に2人は身を固くする。
「だけどオフなんでしょ?」
「オフだからデート行くのよ。やーんもうこんな時間、ゆっくり準備したかったけどしょうがないわね」
そう言って立ち上がった彼の姿を変身用のカーテンが隠す。次の瞬間、シックな黒のセットアップに身を包んだ美青年が現れた。
スカートじゃない、ヒールじゃない。アクセサリーはシルバーの細いバングルとシンプルなピアス。ゆるくまとめられた髪からはユニセックスなパフュームが香る。メイクはほんの少しだけ。
「どお?」
いいんじゃない、と答えるのが精一杯だった。あまりにも美しすぎる。
「アンタその格好で出かけたら襲われるわよ」
「あはは、そうなったら返り討ちにしてやるから平気よ」
タイガース・アイは「で?」と促す。
「相手はどんな男なの」
それを聞いて目を丸くしたフィッシュ・アイだったが、すぐにうっそりと目を細めて答えた。
「かわい子ちゃんよ。最近よく会うの。いい感じよ」
わざと終電逃させちゃおうかな、などと意味深な言葉と香りを残して彼はうきうきと出かけてしまった。
「なんなのよ、あれ・・・」
「さあ・・・」
もしや誑かす側に目覚めてしまったのだとしたら、相手はすっかり骨抜きになってしまうに違いない。
我に返った2人は顔を見合わせる。
「どうせならついでにペガサスがいるか覗いてほしいもんよね・・・」
「きっとみんな並んででも夢の鏡を見てもらいたがるわよ」

***

ナルシスはなまえの大学の前で大勢の女子の視線を集めていた。
「あっ、なまえー!おっそーい」
「フィッシュさん!もうっ学校には来ないでって言ったじゃないですか!」
「いーじゃないの別に。ねえ、今日の僕もイケてるでしょ?」
「はいはいイケてます素敵です、だから早くあっち」
きゃぴきゃぴした2人のやりとりは仲間内ですっかりお馴染みになっている。
「なまえー七海くんもおつかれー」
「やっほー、デート?あいかわらず仲いいね」
推しのライブ行ってごはん食べて夜カフェに行くの、と答えると「充実してるねー」と返ってくる。
「じゃーねー、送り狼に気をつけて」
「はーい、ありがと。気をつけるわ」
「なんでフィッシュさんが気をつける側なんですか・・・」


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