犯人に告ぐ


ぴしぴしと薔薇の茎で空気を打ちながら、並んだ者たちの顔色をひとりひとりうかがう。
「さて・・・自ら名乗り出るなら、私にも情けというものがある」
戸惑いを隠しきれない者、ふてくされている者、何が起きたのか理解できていない者・・・ただ、これだけは分かる。

アフロディーテは今、完全に怒り狂っていた。

「言わないのか?・・・・・・良い度胸だ」
しんと静まる部屋に響き渡る事情聴取の声。美しい額に青筋を浮かべる彼の表情は今や無に等しい。その足は、やがてひとりの男の前で止まった。
「デスマスク・・・どうせ貴様なのだろう?いいかげん白状したらどうだ」
「はっ、んなわけねえだろ」
ほう、とアフロディーテの目がすうっ・・・と細められる。次の瞬間、うなりを上げた薔薇が厳しく頬を打った。
「嘘をつくな!吐け!俺がやったと言え!」
「いッてえ・・・ざっけんな!冤罪だっつってんだろーが!」
「冤罪ねえ・・・ではシュラ、貴様か?」
シュラはちぎれるくらい首を横に振って否定する。
「違う、信じてくれ!」
「情に訴えようとしたても無駄だ。怪しいな」
「本当に俺ではない!」
「はっ、どうだか」
そう吐き捨てた彼におそるおそるカミュが問う。
「あの・・・申し訳ないが、私はまったく状況が飲み込めていないのだが」
「教えてやろう。この中の誰かが、私の、下着を!盗った!!そうだな!?!?」
そうだなと言われても、という思いが誰の胸にもよぎる。本当に覚えがないのだ。
「さすがにそこまで飢えてるやつはいないんじゃないか・・・?盗るならせめてコイツのだろう」
かろうじて女だからな、と言ったカノンの向こうずねを隣に立っていたなまえは思いきり蹴る。
「痛っ!何をする」
「なんてこと言うのよ!」
その勢いに思わず手の中の薔薇を取り落としてしまったアフロディーテだったが、
「悪いが君も容疑者のひとりなのだよ」
と告げる。
「ありえない。どうして私がアフロディーテの下着を盗らないといけないわけ?」
「どうせ叶わぬ恋ならばせめて・・・というやつではないか?」
険悪な空気を少しでも笑いに変えようとしたカノンの向こうずねは再び犠牲になった。
「ふざけるなら黙ってて!」
「そうだ!それとも、貴様が犯人か?」
「なんっで、俺がお前の下着を盗らないといけないのだ・・・くそ、いてえ・・・」
「どうせ酔った勢いかなんかでクローゼットに手を突っ込んだんだろう」
死刑だな、とシュラがぽそりと口にする。
「はああ!?無実だぞ!」
「やかましいぞ容疑者ども!一万歩譲ってなまえ、君ならぎりぎり許す」
「だからやってないってば!」
「少なくともここにいる誰よりも、君に盗られているほうが私の心は救われるのだが」
やってません、となまえは断固として否定する。
「本当に?ほら、酔っていて記憶がないのかもしれない」
「・・・そんなに言うなら身体検査でもなんでもすればいいじゃない」
そう言って一歩前に出た彼女にアフロディーテはたじろぐ。
「いや、なにもそこまでは」
「どうぞお好きに。でも、これでなにも出なかったらその時こそ覚悟してよね」
分かった分かった、と彼は両手を上げた。
「君じゃない。犯人はなまえ以外の誰かだ」
「懐柔されたか」
デスマスクの言葉に彼は「うるさい」と容赦ない。
「だいたい頼まれたって誰も取らんわ」
うんざりしたようなカノンの言葉に肩を震わせながら、
「誰も頼まんわそんなこと」
とアフロディーテは睨み返す。
「あの、もうひとつ聞いても良いだろうか」
「なんだ、カミュ?」
「下着が盗まれたということは・・・もしや今パンツを履いていないのでは」
「今すぐその口を閉じろ」
なまえはふと、隠れて顔を上げないでいる存在に気がつく。
「ミロ?」
こっそり手招きをする彼のそばに行くと、ミロは焦ったようにささやいた。
「俺のポケットに何かあるのだがどうすればいい・・・」
「えっ」
おそるおそるそれを確認したなまえは目を剥いた。ハンカチでもないスカーフでもない、まさにそれは、
「それ・・・って・・・」
「やばいだろ、まずいよなこれ?」
ふたりがひそひそと話している間も、被害者は怒りは留まるところを知らない。
「犯人に告ぐ!こうなったら仏の顔も三度まで、私も堪忍袋の緒が切れた」
誰が仏だって?とデスマスクが呟く。
「デッドオアデッドだ・・・ピラニアンローズかロイヤルデモンローズ、どちらか好きな死を選べ。そうして貴様の墓標に刻んでやる、僕は男の下着を盗みましたとな!!」
それを聞いたミロは顔面蒼白だった。
「自首したら・・・?」
「この状況でか!?どう考えたって手遅れだろう!」
アフロディーテは「必ず犯人を見つけて始末するぞ!」と叫んだ。
「日の下に引きずり出したあかつきには毒薔薇を撃ち込み、フリージングコフィンで氷の棺に逆さ磔にしてエクスカリバーで八つ裂きにしたあと、異次元の狭間を永遠に彷徨わせてやる!」
息まいている被害者の怒りが少しでもおさまってはくれないかと、なまえとミロはひたすら片隅で怯えていた。


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