ss:裸足で散歩(魚)
泳ぐにはまだ早い海辺も、散歩を楽しむにはちょうどいい。真っ白い砂浜に刻まれたふたりの足跡を、穏やかな波がさらって消してゆく。
人工物が何もない静かな入り江には、空と海と砂だけしかなかった。
「何もないね」
そう口にすれば、アフロディーテはおかしそうに「それを見に来たんだろう?」と言った。
観光シーズンを避けて計画した短い旅行先は、フランスの海岸に建てられた小さなホテル。ささやかな休暇を目一杯楽しんだ後は、日常に戻るだけ。
「帰りたくないな・・・」
ぽつりとこぼれた言葉を聞いて彼は笑った。
「アテナが聞いたら悲しむだろうな」
「あ・・・ごめん」
そう呟いた私を優しい腕が閉じ込める。
「私だって本当はこのまま君を攫ってしまいたい。・・・聖域はきらいか?」
「まさか。大好きだし、できるならずっといたいと思ってる」
アフロディーテは「よかった」とささやいた。
「今さら君を手放してやれそうにない」
薔薇のように美しく、誇り高い聖闘士。かけがえのない親友、誰よりも愛してくれる優しい恋人。いつか必ず離れる日が来るとしても、その日までそばにいたい。
心地良い風が優しく髪を揺らす。終わりのない波音だけの世界。
水面に反射する光、この世の誰よりも愛しい恋人のために目を細め、アフロディーテは言葉を紡いだ。
「愛してる」
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