ss:invitation.(リュゼ)



暖かな、春の夜だった。霞がかった空気が心地良い。
それなのに、どうしてか頭が冴えてしまって眠れないでいる。明日は予定があるから早く休まないといけないのに。
時計の針が規則的に進んでいくのを、時折眺めては寝返りをうつ。
「(あ、今度こそ寝られそうかも・・・)」
遠くに行こうとする意識を、かたり、というかすかな音が呼び戻した。
カーテン越しに降り注ぐ月の光が明るい。指先を伸ばして確かめれば満月だった。覚めてしまった眠気が戻るのを気長に待とうと身を起こしてカーテンを開ける。
「・・・あれ?」
月を背にひとつのシルエットが浮かび上がっているような気がして、思わず窓から身を乗り出した。
黒い羽根が舞う。
「今晩は、お嬢さん」
「!」
いつの間にか移動していたシルエットは、人の姿をしていた。叫び出したいのをこらえて「誰?」と問う。
「私はリュゼ」
「・・・リュゼ?」
「ああ。君を迎えに来たのさ」
暗闇に目が慣れて、ゆっくりと浮かびあがる姿は美しい男性だった。
「どう、して・・・?」
私の問いに彼は微笑んで答える。
「君が美しいと思ったから」
「・・・夢?」
「どちらだと思う?」
答えられないでいると、リュゼという相手は重力などないかのようにふわりと窓辺に降り立った。
「ずっと前から君を知っていた・・・こんな場所にいるのはもったいない」
冷たく光るリュゼの瞳。意識が遠くなる。柔らかな声がささやいた。
「一緒においで」


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