夢見るオトコのコ
「アンタ最近全っ然仕事してないじゃないの」
「そう?」
生返事をしたフィッシュ・アイに、ホークス・アイも「そうよ」と頷く。
「やる気あんの?」
「失礼ね、あるわよ。ハズレばっかりってだけ」
タイガーズ・アイは飲み干したグラスをわざと乱暴にカウンターに置く。
「だいたい女はアンタの専門外じゃない。なのにコイビト?いつまで油売ってんだか、いい加減にしなさいよね」
僕だってあの子ちょっと狙ってたのに、とタイガーズ・アイは以前のリストを取り出す。
「いやあね、まだそんなハズレのリスト持ってたんですか」
「息抜き用よ。どうせハズレなら弄んだっていいでしょ」
「その中になまえチャンの名前もはあるんだから傑作よね」
おかしそうなホークス・アイの言葉にフィッシュ・アイは「やめてよ!」と立ち上がる。
「僕のなまえよ!手を出さないで」
突然の剣幕に驚く。
「なによ、いきなり大きな声出して」
「ていうか鏡は覗いたんでしょうね?」
まだ、と答える相手にホークス・アイは「プロ意識持ってちょうだい」とたしなめる。
「いい、アンタは狩る側であの子は獲物よ。どうせ今回もイモなんだからさっさと切ってお得意のオトコ相手にすればいいじゃないの」
「分かってるわ・・・ちゃんとやるから、お願いよ、あの子にだけは手を出さないで」
予想もしない反応にふたりは鼻白む。
「ねーえ、どうしたのよ。アナタらしくないわよ」
「そうよ、いつもなら馬鹿なオトコから搾り取ってブイブイやってんじゃないの」
分かんないのよ、とフィッシュ・アイは呟いた。
「僕だってどうして自分がこんなになまえのこと考えてるのか分かんない・・・でも、それだけで幸せな気がするの」
幸せねえ、とホークス・アイはカクテルを混ぜながら肩をすくめる。
「入れ込みすぎましたね」
「っ、そうなのかな・・・」
「残念だけどアナタの抱くそれは幻想。悪いこと言わないからさっさと忘れちゃいなさい」
「うん、そう・・・そうよね・・・」
「目的を見失わないで」
それ以上は何も言わずに出て行ってしまったフィッシュ・アイの後ろ姿を見送ると、残されたふたりは彼らは「ハアー」とため息をついた。
「ホントに分かってんのかしらねあの子」
「どうだか。タイガー、奪っちまいなさいよ」
「そうねえ・・・」
彼は写真を取り出すと、
「悪くないんだけどさ・・・フィッシュのお手付きってのがネックだわねえ・・・」
「出たー、アナタってペガサスよりもペガサスなとこありますわねえ」
下卑た笑いがバーに響いた。
***
雨の街を、ヒールであるのも構わずフィッシュ・アイは歩き続ける。
”残念だけどアナタの抱くそれは幻想、悪いこと言わないからさっさと忘れちゃいなさい ”
「分かってるよそんなの・・・」
どうすればいいの。
きっとこれはぜんぶ幻想で、2人が言っていることが正しい。けれど、思い描いた理想になまえを置いてみると、もっと素晴らしいものになるような気がした。
中途半端で情けなくて、幸せになりたいのになれない。
雨粒と涙の滴がアスファルトの地面に染みを作っていく。
「(いきなり会いに行ったらいやかな)」
雨に濡れて貼りつく髪も、絡みつく視線も何もかもががうっとおしい。うじうじしてばかりの自分にも苛立ちが募る。
「!」
ふいに着信音が鳴る。震える手でボタンを押すと、
”もしもし、七海くん?”
と愛しい人の声がした。
「・・・どうしたの」
”あのね、もし今日ごはん食べに来ないかなって”
はにかんだような笑顔が目に浮かぶ。
「・・・行くよ」
”ほんと?良かった、待ってる”
「うん・・・あのね」
好きだよ、と言うと電話越しに照れたような笑い声が聞こえた。
"ありがとう、私も。もしかして外にいる?”
「そう。雨の音、聞こえる?」
”うん、風邪ひくと悪いから、できたら早くおいでね”
ありがとうと答えて、会話を終える。
「・・・・・・・いいんだ」
どうせ全部が幻なら、もう少しだけ夢を見ていたって。
- 11 -