貴澄と恋人
「えっ・・・女の子いるの!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
俺は「聞いてないよ」とため息混じりに答える。
「まあいいじゃん、たまには。彼女には黙ってればさ」
「俺がやなの。内緒で合コンとか、もしばれたら心証悪いじゃん」
「ばれなきゃいいんだろ?口止めしとけば、」
「甘い。絶対どっかから漏れるに決まってる」
てことで帰る、と踵を返す俺の腕を友人は「まあ待て」と掴んで引き止める。
「ほとんど面子変わんないし、ゼミの飲み会ってことにすればいーじゃん。なっ」
「えー・・・」
すると「鴫野くーん」とこちらに気づいた女子が手を振った。
「ほら、お待ちかねだぞ」
「言い方。もー」
仕方なくなまえにメッセージを送る。
“ごめん、今ゼミの飲み会に来てます。普通に女子もいます。
なまえがいやならすぐに退散するから”
むしろ俺がやなんだけどね、と思っていると目の前にどこからともなく黄金色の飲み物が入ったグラスが回ってくる。
「いやこれ誰の飲みかけ?」
「新しいグラスに注いだから大丈夫だよ」
「ていうかまだ未成年だからお酒とか飲めないし」
そう言ってビールの注がれたそれを避けると「えー真面目ー」と誰かが言った。
「ねー鴫野くんてさ、彼女とかいるの?」
「いるよ」
「そうなんだー」
私も彼氏いるー、とすっかり出来上がっている彼女は赤い顔で笑う。
「そうなんだ、よかったじゃん」
「うん。でもね、最近ちょっと冷めてる感じなんだよね」
ブブ、と携帯が振動したのに気づいて画面を確かめる。
そこには、
“教えてくれてありがとう、楽しんできてね”
という文字が表示されていた。がくり。
「(帰りたかったんだけど・・・)」
彼女を理由にするんじゃなくて自分の意思で帰れってことだよな、と考えていると「ねーねー鴫野くんさー」と腕を揺さぶられる。
「なに?ていうかちょっと酒グセ悪いかも・・・」
「えー全然そんなことないしー」
「あるよ、ほらお水飲んでお水」
おい鴫野ォ、とさっきの友人が間に割って入ってくる。
「ドリンクまだだろ、なんにする」
「いやーやっぱり僕、」
「鴫野くんお酒飲まないんだってー」
「たりめーだろ未成年なんだから。つーかお前もやめとけよ、学校にばれたらえらいことになるぞ」
「いーじゃん、みんなやってるもん」
学校にばれたらえらいことになる、という一言がエコーになって頭に響く。
「・・・ごめん、やっぱり帰る」
「えっ」
「なんでー」
「彼女待ってるから!じゃっ」
今度は引き止められることもなく無事に店を出ることに成功したのだった。
飲んでないし、セーフだよね多分・・・うん・・・。
***
「・・・てことがあってさあ」
災難だなお前も、と呆れ半分同情半分といった口調で旭は肩をすくめてみせる。
「けど、なんにもなくて良かったじゃん」
「それがさー、その時にいた別の子から連絡先聞かれて困ってるんだよ」
「別の子って?同じゼミ?」
「他校」
ため息がこぼれた。
「モテモテだなあ貴澄」
「やめてよ、今の僕はなまえ一筋なんだから・・・あ、」
なんか言ってた?と聞いてみる。
「いや?特には。普通に今日もマネしてたけど」
旭は黙って座っていたハルに「なあ?」と尋ねた。
「ああ」
「ほんとに?なんかちょっと怒ってたとか、へこんでたとかもなし?」
「別に」
がっかりしていると「なんでが怒ったりへこんだりすんだよ」と旭は不思議そうな顔をする。
「カレシがそーいうのに参加してたらいやなんじゃないかと思って」
「でも事前に申告してオッケーもらってるんだろ」
「そーだけどさ、そうじゃなくて・・・」
逆の立場だったらやだし、と口にすれば「あーそーいう」と返ってくる。
「しかもあの後メッセ返って来なかったし、ひょっとして怒ってたりするんじゃないかって」
「なら直接聞けばいいんじゃないか」
「それ俺も思った」
「えーそんな簡単な話かなあ」
なにをうじうじ悩んでいるんだ、とハルは不思議そうに言った。
「だって、僕ばっか好きなのかと思って・・・もしかして今のちょっと重かった?」
「だいぶな」
その時、携帯が鳴った。でも見ない。
「いーのか?」
「いーよ、いよいよ連絡先がばれたのかもしれないから・・・」
するとハルがおもむろに自分の携帯を耳に当てた。
「ハル電話?」
「そうみたいだな」
「もしもし、ああ・・・いや、貴澄がなまえのことで悩んでいるみたいだから」
「えっ!?ちょ、ハル?」
ん、と携帯を差し出され呆然としている僕に、
「ちゃんと話せ、自分で解決しろ」
とハルは言った。
「あ、うん・・・もしもし、なまえ?」
“貴澄くん、なにかあった?”
「えーと・・・なんていうか、別になにってわけじゃないんだけど・・・」
昨日あったこと、連絡先を聞かれていることを素直に全部打ち明ける。
“そっか、大変だったんだね。あと、そういうの教えてくれてありがとう”
「うん」
“あのね、私、貴澄くんのこと信頼してるし、その・・・”
ちゃんと好きだから、と耳元で聞こえた瞬間思わず携帯を取り落としそうになった。
「・・・僕も。なまえのこと、大好きだから」
“なんか照れるね、と耳元で聞こえた時、視界にむっとした顔の旭が入ったかと思うと、携帯の画面を見せられた。
フツーにのろけた会話すんな、って書いてあって、口パクで「ごめん」と返す。
「うん、うん・・・じゃあまた後で」
会話を終わらせ、ハルに電話を渡した。
「解決したか」
「うん。ありがとうハル、ついでに旭も」
「ついでってなんだよ」
「だって別に旭は何もしてないし」
「お前のお悩み相談に付き合っただろーが」
「うそだよ、ごめんって。カフェラテおごるから許して」
「バナナラテな」
「俺は学食のサバ味噌定食がいい」
「えー・・・ま、いいけど」
再び携帯が震える。ゼミの友人からのメッセージだ。
“お前の連絡先、知りたいって子がいるんだけどいい?”
だめ、と指先で返事をする。
“大切にしてる子がいるからそういうの教えないで。ごめん”
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