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【その3】
控えめなノックの音が聞こえた。
「なまえちゃん」
「悠人、どしたの」
「寝らんない」
あらら。寝そべっていた私は起き上がる。
「昼寝した?」
「してない」
「お腹は?」
空いてない、と即答する。かなしい。
「なまえちゃんまだ起きてる?」
「んーもうちょっとね」
「ならオレとおしゃべりしよ」
「いいけど」
やった、と彼はベッドにダイブした。
「ちょっと、」
「?お風呂なら入ったよ」
違・・・いいやもう、とため息をつく。
「なまえちゃんもこっちおいでよ」
「はいはい」
隣に座ると悠人はへへ、と笑う。
「なんかお姉ちゃんって感じ」
「最初からお姉ちゃんですけど?」
「そうだよ」
お兄ちゃんはいいの?と尋ねれば「いい」と悠人は首を振った。あいかわらず兄には冷たいな。
するとまたしてもノックの音がした。
「はあい」
「なまえ、お」
楽しそうなことしてるな、と言う隼人くんを見て悠人はがばりと起き上がる。
「隼人くんは来ないで」
「はは、冷たいこと言うなって」
せっかくガールズトークしたかったのに、と悠人は言った。いつものことだけどツッコミが追いつかない。
「入ーれーてー」
「むりやり入ってくんなってば!」
「あの、ふたりとも起きようか・・・」
結局、私を真ん中に並んでタブレットを眺めることにした。狭い。
「お、これうまそう」
「ホントだ。あ、てかここ行きたいと思ってた店、近いじゃん」
新作出てる!どれ?へー可愛いね、でしょ?明日休みだし行こうぜ、いいよ。
時計に目をやればあっという間に1時間が経っている。
「(さっきまでケンカしそうだったのにもう仲良しになってる)」
兄弟って最高だ。それに、金曜日の夜ってなんて楽しいんだろう。
「ちょっと隼人くん、ベッドの上でパワーバーはやめて」
「ヒュウ、ばれたか」
【その4】
「うーん・・・」
前髪が伸びてきたな。よし、ちょっと切ろう。
「えーとハサミハサミ・・・」
ハサミ?と隼人くんが反応する。
「前髪切ろうと思って」
「ちょっと待って。まさかそのへんのハサミで切るつもりじゃないよね?」
口をはさんできた悠人に「そうだよ」と答えれば、
「だめ!」
と叫んだ。
「前髪がほんのすこし短くなるだけで全然印象変わるんだから!」
「でもほら、ジョッキンってするだけだから大丈夫だよ」
なにも大丈夫じゃない、と悠人はずいと身を乗り出す。
「オレが切ったげる」
「え」
***
シャキン、ショキショキ。軽快な音がおでこから聞こえる。
うう、顔の前に刃物があるってちょっと苦手かも。
「・・・できた」
まだ目は開けないでね、と言われたため瞑ったままでいると、ふわふわとしたものが鼻の頭を撫でた。
「くすぐったい」
「オッケ、はらい終わったよ」
ヒュウ、と隼人くんが声を上げる。
「可愛くなったぜ、なまえ」
「ほんと?」
「なまえちゃんはもともと可愛いよ。だけど超可愛くなった」
私の兄弟ってほんと天然タラシだなあ。
オレ天才かも、そう言いながら鏡を見せてくれる。
「いい感じ、ありがとう悠人」
「どういたしまして。なまえちゃん専属の美容師兼スタイリストになったげる」
いつでも指名してね、なんて彼は笑った。
「じゃあオレは専属のシェフになるよ。昼メシ、何が食いたい?」
「パスタ!」
「オムライス!」
私たちの声が重なる。
「まかしとけ、美味いもん作るよ」
「やった、あ、私手伝うよ」
「お、いいのか?サンキュ」
「しょうがないからオレも。隼人くん、たまに手つき危なっかしいし」
ありがとな、と隼人くんは笑った。
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